18
風紀室は、なんと生徒会室の隣にある。
隣とはいっても中央にだだっ広い階段を挟んで右側が生徒会室、左側が風紀室だ。
伝統的に二つの組織はあんまり仲が良くないのでこの配置は緊張感があるというか、この配置したの誰だよって感じだ。
あとそんなに仲悪いならどっちかが場所移ればいいのにと当然思うわけだが、移動した方が負けみたいな意地の張り合いになってるそうだ。
気持ちはわからんでもないけど。
特別棟の三階まで階段を上って、田中先輩と左側へと行く。仁王像みたいな風紀委員が二人ドアの両脇に立っていた。
生徒会室といい、そんなに警戒しなくても。
ってあれ、よく見たら門番の右側の人、この前キスした眉毛先輩じゃないすか。
うわぁ複雑……とか思ってたらばっちり目が合った。
だから頬を染めないで!
「監査委員です。北條委員長に呼ばれて参じました」
田中先輩がのんびりと言うと眉毛先輩が上ずった声で「通れ」と言った。
先輩がノッカーでノックをすると「どうぞ」という風紀委員長直々の声がした。
「……遅かったな」
「すみません」
「待ちくたびれたから火炎竜の骨の採取に行ってしまっただろうが」
ゲームやってたのかよ!
室内に入ると風紀委員の奴らが顔つき合わせて携帯ゲームで白熱してた。その顔ぶれの中には滝も入ってた。仲いいなお前ら。
――何度来ても思うんだけど、この部屋やたら女子力高いよなぁ。
間取りは生徒会室とそんなに変わらないのに、調度品の数々がいちいち乙女チックというか。
オシャレな花瓶に生花が生けてあるし、なんでカーテンがレースのカフェカーテンなんだろう。
猫足のヨーロッパ調のテーブルといい委員の中に乙女がいるんだろうか。
……まさか眉毛先輩じゃねーよな?
風紀委員長はゲーム機をデスクの上に置いて足を組み、膝の上で両手を組んだ。
その眼光は鋭く、さっきまで和気藹々とゲームしてた様子など微塵も感じられなかった。
委員長こと北條先輩は警察のお偉いさんの息子らしい。というか先輩の家は代々立派な警察官を排出している名家なのだとか。
将来は同じ職に就くつもりで文武両道を目指していて、実に厳格なお人だ。
まあさっきみたいにゲームしたりとか普通の高校生っぽいところはあるけど。
「……一人足りないようだが?」
「一年の峰岸君は今日クラスの用事があって来られないそうです。用件は僕たちから責任持って伝えますので」
「そうか。では本題だが、近く行われる体育祭で少々問題が起こった」
問題ときいて思わず田中先輩と顔を見合わせた。
「実はうちの者が聞いてきたんだが、体育祭の水面下で賭けが行われるということを耳にしてね」
「賭け?」
「どのチームが優勝するかという賭けだ。どうやら少なくない金銭が絡んでいるらしい」
娯楽に餓えた奴らがやりそうないかにもありがちな話だ。だけどどうしてそれを俺たちに話したんだ?
「あの……北條、どうして僕たちに?」
「それらはクラブ主催でやってるという噂だからだ」
「!」
北條先輩が苦々しい顔で嘆息した。
「部活動の健全な運営の監視は君たちの仕事だろう」
「いえ、むしろそれは学園生活の規範に抵触する事柄じゃないんですかねぇ」
暗にお前らの仕事だろ?と田中先輩が牽制すると、北條先輩が鼻で笑った。というか表情は笑ってないから鼻息を吹いただけだったんだけど。
「もちろんだ。だから真っ先にこちらへと話が来た。だがクラブ関連の話となると監査委員にも話を通しておかないとと思ってな」
「あぁ……そうですか」
田中先輩の声に不審な音が含まれる。
要するに、俺たちに何をしろって話なんだよな。たった三人だけの俺たちに。
部屋の雰囲気も徐々に重くなっていく。
田中先輩と北條先輩以外、他に誰も言葉を発する人はいない。
「それで?僕たちは何をするべきですか?」
「クラブの視察を行ってそれとなく賭けのことを探って欲しい。そして事が発覚し次第中止させてくれ。ただし、あくまで噂に過ぎないので大々的にはしないでほしい」
「まだ噂は噂であって確証ではないんですね?」
「その通りだ」
また面倒なことを……。
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