17

その日は編入生の話題で持ちきりだった。


三春翼――俺も興味はあったけど、嵐のような性格をしているらしい三春は情報が錯綜していてよくわからなかった。

わかったのは、A組の生徒でワカメみたいなもじゃもじゃ頭に分厚い眼鏡着用でやたら元気がいいってことくらい。千歳を捕まえて聞きたかったんだけど生憎行き違いをしたらしかった。

知り合いのA組のヤツを捕まえて聞いてみたら、なんだか戸惑ってた。
もじゃもじゃ頭とか完全にオモシロ要員としか思えないんだけど。

龍哉と一緒に空き教室で昼飯を食べながら三春について話したが、龍哉も「よくわかんねー」の一言で終わった。

なんだつまんねーの。
まあ隣のクラスなら廊下とかで会うこともあるだろうな。



食後に龍哉とダラダラしながらまったりしてたら、俺のスマホのバイブがブルブルと震えた。

「……あ、千歳からメール」
「え?」

千歳と聞いて龍哉も俺の手元を覗き込んでくる。
文面は一言『三春につかまった /(^O^)\』の文字。顔文字うぜぇ。

「捕まったってナニ?三春と仲良くなったって事?」
「わかんねー。電話してみっか」

発信履歴から千歳の番号を呼び出してかけてみたけど、コール音が響くだけで全然繋がらなかった。

どゆこと?取り込み中なのか。

「電話出ねーわ」
「どうしたんだろうな」
「さあ?」

寮に帰ったら聞いてみるしかねーな。
あ、でも今日俺風紀委員に呼ばれてるんだったな。すぐ帰れるといいけど。






放課後になると、三春の噂もだいぶ俺の耳に入ってくるようになった。

どうやら三春は何故か今日一日で生徒会執行部に気に入られたらしい。

俺はその話に驚愕した。やっぱり三春って学生芸人かなんかじゃねーの?
素直に尊敬するわ。あんな奴らと関わるってこと自体が勇者としか思えない。俺の周りはだいたい同じような感想を抱いたらしい。


龍哉は吹奏楽部へ、俺は監査委員へ行くために、二人並んで部室棟へと向かっていた。
監査委員室は部室棟近くにあるから龍哉とは途中まで一緒だ。

「転入生すっげえなー。むしろ見てみてーわ」
「俺見たよ。遠くからだけど」
「えっマジ!?いいなー龍哉。どうだった?」
「完全に笑い取りに来てるわアレ」
「やっぱりか」

早く千歳の話が聞きたい。一体どんなヤツなんだよ三春翼!
監査委員室に到着したのでそこで龍哉とは別れた。

「お疲れでーす」
「あ、志賀君お疲れ」

教室に入ると、田中先輩が一人で窓際で小説を読んでいた。業務は放り出していたらしくボールペンが書類の上に投げられてる。

「あれ、今日は先輩一人?」
「うん。峰岸君はクラスの用事があるから遅れるって」
「へえ……あ、そうだ。今朝風紀委員長に監査委員全員来いって言われたんですけど先輩知ってます?」
「うん、北條に聞いた」

田中先輩はほんわかとした笑みを浮かべた。つられて同じように気の抜けた顔で笑ってしまう。マジ癒しだなー田中先輩。

「どうしよっか。まだ全員揃ってないけど」
「いいんじゃないの、ミネ君は。クラスの用事で抜けられなくてって言えば風紀委員長も納得するっしょ。俺としてはさっさと用事済ませたい」
「そうだねぇ」

おっとりとした受け答えをして少し考え込む田中先輩。

その間に荷物を椅子に置いてスマホをチェックした。千歳からは昼以降メール返信はない。それ以外も重要っぽいメールはなかった。

「いいや、二人で行っちゃおうか。彼らを待たせたら悪いもんね」
「りょーかい。あ、ミネ君には俺からメールしておきます」
「じゃあ僕は一応書き置きを残しておこうかな。風紀室に行ってますって」

分かりやすく監査委員の腕章を装着し田中先輩と部屋を出た。
ドアにミネ君への書き置きを貼り付けて鍵をかける。

「……ところで先輩って名刺とか持ってます?」
「え?ないよ」
「ですよねー」


今日のラッキーアイテムはゲットできず。



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