16
洗濯が終わって自室に帰ると、備え付けのミニキッチンで目玉焼きとウィンナーとトースト三枚を用意して簡単な朝食をとった。
テレビをつけて朝番組をなんとなく見る。
……え、天秤座今日1位?まじでいいことありそう?
ラッキーアイテムは上司の名刺……学生には関係なかったな。
制服に袖を通して眉を顰めた。だんだん暑くなってきたから正直ブレザーも着たくないんだけどなぁ。
長袖のシャツを腕まくりしてブレザーを手に持った。
寮から学校までは徒歩10分。
登校の生徒が多くなってきたところで、俺はブレザーを羽織った。
滝の言った通り、昇降口前で風紀委員の腕章をつけた奴らが服装検査をしてた。
普段服装についてあんまり言われないから、抜き打ち検査に結構な奴らが捕まってる。
俺は忠告に従ってアクセも付けて来てないし、ちゃんとネクタイとブレザー着用だったから捕まらなかった。
途中で滝の姿を見つけて手を振っておいた。滝も手に持ったボールペンを軽く振ってくる。
何を隠そう滝は風紀委員の副委員長なのだ。
ちらりと風紀委員の顔ぶれを見る。どいつもこいつも体格が良く、いかにも強そうな奴らだ。
そいつらを取り仕切るのは銀縁眼鏡をかけた細身のインテリ男――北條奈津生が風紀委員長だ。
短い髪を七三にきちんとセットしていて、いかにも神経質そうな怜悧な美貌は生徒人気も高く遠巻きに崇拝されている。
風紀委員長を見てたら、不意に視線が絡んだ。
やべっ。
すぐに目を逸らしたはずなんだけど、風紀委員長は俺の方につかつかと歩いてきた。
「監査委員・副委員長の志賀理仁だな?」
「あ、はい」
「放課後、監査委員全員、風紀室に来るように」
「……はい」
すっごく面倒事の予感。
◇
朝のSHR前に俺のキスフレの一人と会って不意打ちにチュッとされた。
でも好きなイチゴミルク飴をもらってちょっとご機嫌な俺。
今更だけどマジで俺の唇ってお手軽すぎんだろ。
「はよー龍哉」
「おー」
教室について隣の席の龍哉に声をかけると、スマホで音楽を聴いていたらしくイヤホンを外して笑い返してきた。
スクバを机のフックにかけて龍哉の方に向き直る。
「なぁお前、千歳から聞いた?」
「何を?」
「編入生の話」
「あー聞いた聞いた」
龍哉はスマホでポンポンと画面をタップして音楽を止めている。
「ソレ何聴いてたの?」
「千歳から勧められたやつ。なんつったっけ……」
「あ、いい。もうわかった」
アニオタの千歳が勧める音楽なんて大体アニソンかその辺りしかない。
しかし勧められて律儀に聴く龍哉は付き合いのいいヤツだな……俺なら余裕でブッチだわ。
「んで、編入生だっけ?理仁は情報どこまで知ってる?」
「んーと、今週来るらしいってことくらい。今週のいつかは分かんね」
「そうか。俺が聞いたのはその編入生の編入テストがかなり成績良かったらしいってことな」
その新情報に俺はかなりびっくりした。
編入テストは外部入学受験より難しいって聞いてるから、かなりの秀才君なんじゃねーの?
「あーだったらSかAのどっちかかな」
「かもな」
S組とA組は飛びぬけた成績優秀者やスポーツ特待生などが集められているクラスだ。
それ以下のB〜G組は別に成績は関係ない。
年度毎に審査があり年間通して一定の成績優秀者はA組やS組に上がれるという仕組みになっている。
ちなみにS組ってのはぶっちゃけ化け物の集まりだ。授業なんか出てなくても簡単にテストで満点取れちゃうような規格外の檻って感じ。
話してるうちにチャイムが鳴ってうちの担任の篠原が教室に入ってきた。
「ホームルーム始めるぞー」
いつものように出席を取り始める。しかしその途中でいつもじゃないことが起こった。
「――みはるつばさだ!みんなよろしくな!」
隣のクラスからばかでっかい声で編入生の自己紹介が聞こえてきた。
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