13
「ん……」
逃がさないとばかりに唇を塞がれて思わず変な声が漏れた。
下唇をはむはむと吸われたり、何度も啄ばまれる。……おいちょっとなげーな。
「……もーいいだろ」
「何言ってんだよ、もうちょっといいじゃん」
「お前なぁ……」
唇を合わせながら小声で会話する。
しょうがねーな、気が済むまで付き合ってやるか。
ていうかさりげに腰とか尻を撫でられてんだけど。セクハラ反対!
「ふ……ちょ、はやさか……」
「んー?」
服の上からもぞもぞと体を擦る手をやんわり押し留める。
「触んなってまじで……」
「ごめんごめん」
ごめんとか言いながら全然手を止めてないのは何でだよ。
「んじゃ、アド交換しようぜ」
「おーよろしく」
早坂にぎゅっと抱きつかれながら窮屈な思いをしてアドレスを交換する。
よし、これでもう俺たちが生徒会室に行くことはなくなったな。
「さんきゅ」
「どーいたしまして」
早坂に、ちゅう、と唇を吸い付かれて辟易した。
まだ終わってねーのかよ。ホントねちっこいよなぁ。
しばらくされるがままになっていたが、飽きてきたから閉じてた目を開けた。
――そして死ぬほどびっくりした。
目の前に無表情の仁科が、いた。
俺の様子に異変を感じた早坂も唇を離して背後を見て顔を青褪めさせた。
小さく悲鳴を上げた早坂は慌てて俺から離れた。
「……早坂くーん、カイチョーが『遅い!』って激おこだったよ〜?」
「あ、す、すみません今行きます……」
「俺は志賀ちゃん送ってくから、カイチョーにそう伝えといて」
「はい……!」
早坂は足をもつれさせながら生徒会室の方へと小走りに戻って行った。
マジで何で来てんだよ仁科。
「……さっきも言ったけど送迎とかいらねーよ」
「志賀ちゃんさぁ」
仁科のやけに低い声に俺はビクッとした。なんかいつもと様子が違うような。
「なんで俺のこと避けてんの?」
「……避けてねーよ」
「ウソじゃん。新学期になってから全然話してくんないじゃん」
「もともと校内で会うことなんかなかっただろ。クラスも違うし」
「……エッチしたから?」
直球で投げかけられて、ずくりと心臓が痛くなった。
「なんで?志賀ちゃん気持ちよさそうだったし別に嫌がってなかったよね?俺のセックス、どっかダメだった?」
「うっせーな、ちげーよ!そういうことじゃねーんだよ!」
「は?」
思わず大声で言うと、仁科が不機嫌そうに顔を歪めた。
「いいからもう放っといてくれよ!お前の顔なんか見たくねーんだよ!」
「は?なんで?意味わかんない。ちゃんと理由言ってよ!」
「どうでもいいだろ!」
「理仁!」
急に、肩を掴まれて唇を塞がれた。久々の仁科のキスにとろりと思考が溶けてしまう。
やばい、やばい、気持ちいい、ダメだ、仁科の、熱くて気持ちいいくちびるが――。
危うく流されそうになった俺は我に返って仁科の体を引き剥がした。
ごしごしと唇を拭う。
「お前なんか大っ嫌いだよ、仁科」
嘘だ。好きだ。めちゃくちゃ好きだ。
だから余計に嫌いだ。俺の事なんかただの友達としか見てないお前なんか大っ嫌いだ。
セックスまでしてなお、特別な情もなくただの友達として側に置こうとするお前なんか。
俺がお前を好きじゃなかったらお前のセフレだって構わなかったのに。
「理仁……」
「気安く呼んでんじゃねー」
心底嫌いで、
――大好きだよ。天佑。
第一章 END
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