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「あー会長、体育祭の予算の監査をしていたら少々ミスが見つかりまして」
「あん?」
生徒会長、青柳瑛史。
ド迫力男前。その野生的な美貌とドスのきいた美低音が下僕志願の生徒を虜にする。
まぁとにかく態度がすげー偉そう。椅子に座ってふんぞり返っている様が王様然としてるけど俺は知ってる。
こいつ、超ヘタレ。
「ここです、末尾の数字」
「俺らの書類に間違いがあるわけねぇだろうが」
「よく見ろ」
「お、おう……ですね」
やべ、イラッとして素が出た。あと会長もすぐ折れないで!キャラ保ってて!きついこと言ってごめんね!
「期限近いんで早急に直していただきたいんですが……」
「あーこれ仁科の作った書類だろ?おい仁科!すぐに直しやがれ!」
「りょうかーい」
うわっ、仁科かよ……。
俺はしぶしぶ仁科のデスクの前に移動して書類を差し出した。優雅にコーヒーなんて飲んでねーで仕事しろ!
「ごめんね志賀ちゃん。俺ウッカリ」
てへぺろ、とわざわざ口に出して言う仁科にまたイラッとした。
「……わざとかよ」
「んーん、まさかぁ。ちょっとした寝不足〜。誰かさんが俺を避けるからぁ、気になって夜寝れなくてー」
わざとだな。確信した。
こいつ俺に書類を持ってこさせるつもりでわざと間違いやがった。
「……直し、お願いします」
「はいはーい。じゃあ志賀ちゃん、ここ来てねー」
ここ、と言いながら仁科がポンポンと自分の膝を叩いた。
座れってのか?膝の上に座れってのか。
思わず仁科のデスクを蹴った。ガン!と鋭い音がして室内の全員がまた俺の方を見る。
俺は低く小さい声で搾り出した。
「早くしろカス」
「そんなカリカリしないでー。可愛いお顔が台無しよん」
ニヤニヤと俺を見上げてくる仁科が心底うざい。くたばりやがれ。
しかし仁科は俺がデスクの前から動かないのを悟って、肩を竦めながら自分のパソコンを起動した。
「しがっちー、書類出来るまでちょっとお茶でも飲んでけばー?」
残念庶務、有栖川兄弟の兄の方が天使のような可愛らしい顔で俺の腕に纏わりつく。
うるうるとした大きい目が俺を見上げた。
「や、結構です」
「てめーオレの茶が飲めねえって言うのかよ」
「いただきます」
「だよねー?」
有栖川兄・諒の一瞬ドスのきいた声と凶悪な顔は……見間違いじゃない。
何度見ても目の錯覚かと思うほどの豹変ぶりだ。
族に入ってるとか不良チームのヘッドだとかいう噂があるけどあながち間違ってないんじゃないかと思う。
有栖川兄の方が会長よりよっぽどこえーよ。
「えっと、りんごジュースあるよ、しがっち。それでいい?」
「はい、ありがとうございます」
ほわほわした口調で言ってきたのは有栖川弟・祥。
庶務の有栖川兄弟は双子で、そしてまったく似てない。
兄は身長160そこそこの可愛らしい美少年――だが本性は凶暴。
弟の方はおっとりした性格だが190センチ超えの大男。
二卵性双生児なんだとか。それにしたってどうしてそうなった。
まぁ、よく見れば顔のパーツは結構似てるんだけどな。
「……俺も、くれ」
「う、うん、わかった」
書記のデスクから聞こえたぼそりとした声に、有栖川弟が健気に応える。
俺はちらりと書記を見た。後藤楓磨、二年。
余計なことを喋らず背筋をピンと伸ばして武士のような佇まいだが、その中身はすっげードルオタなんだよな、後藤。
一年のとき知り合いの同室だったからたまたま知っちゃったんだけど、無表情でキレのいいオタ芸の練習してるところに出くわしたときは腰が抜けるくらいびびった。
なんかそれ以来ちょっと仲良くなったっていうか「誰にも、言わないで、くれ……」と泣きそうな顔で懇願されて、秘密保持の仲間として認定されてる。正直キモイから関わりたくない。
時々休日にふらりといなくなるのは剣の修行に出てるからだとか精神統一の旅に出てるとか後藤の親衛隊には言われてるけど、実際はただのツアー遠征だからな。
「僕はアッサムティーをお願い」
「は、はい!」
ティーブレイクの空気を察知して柔らかな声を上げたのは、生徒会副会長の万理小路伊織。
白金の絹糸のような長めの髪を耳にかけ、憂いを帯びた青い瞳の北欧系王子様――と評判の副会長。
……王子様はスカートを穿かないと思うんだが。
副会長はうちの制服を女子仕様に特注して作らせたのだという。何故それをしたのか、答えは「この方が似合うから」。変態だ。
俺よりも身長あるくせにそれが海外の美人モデルみたいで似合ってるのがまた、俺をなんともいえない気持ちにさせる。
生足がツルツルなところや、爪を薄ピンク色のジェルネイルまでしている気合の入れようだ。
おまけに10分に一回手鏡で自分の姿を確認し自分の美貌にうっとりとするほどの重度のナルシスト。
遠くを見つめる瞳が素敵と親衛隊の子達がキャーキャー言うけど、それってただ窓ガラスに映った自分の姿に見惚れてるだけだと思う。
本当に執行部は残念なイケメンの集まりだ……。そしてキャラが濃すぎてマジで疲れる。
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