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そりゃな、いけそうだと思えば走るよな。
俺が打った直後にチームメイト全員が急に元気になってむちゃくちゃ声上げるもんだから、後押しされるように全速力した。
インドア系の俺だけど勝つとやっぱり嬉しい。
そんなわけで次の試合は午後、F組対G組があるから勝ち進んだほうと対戦だ。

その前に、英気を養うための昼休みタイムになった。
クラスマッチ中は体育祭と同じく弁当が配られるってことで、いったん教室に戻って昼飯を受け取り、再び千歳と合流した。
ちなみに若林だが、近ごろ実行委員で別クラスに気の合うヤツができたらしくて今日はそいつと食べるとのことだった。
どう気が合うかはあえて聞かないが、新しいダチができて良かったな、若林。

この時間、食堂はどうせ混んでるだろうし俺らは中庭で食べることにした。
中庭とひと言にいっても広い学園内にいくつか存在していて、先日行った音楽室付近の中庭とは別の場所だ。
外だけどグラウンドと違って剪定された草木の日陰が多いからそれほど暑く感じない。
各務様親衛隊に遠巻きに囲まれてるのは若干気になるけど。もしかして親衛隊にも縄張りがあるのか?
けれど、ここんとこずっとメシは天佑とばっか食べてたせいか、実家に腰を落ち着けたような安心感があった。

「もう夏休みかー」

弁当をぺろりと平らげたうえに持参した惣菜パンをかじりながら千歳がつぶやいた。
明日は短縮授業で終業式、あさってから夏季休暇に入る。しかし休みに入ったからといってすぐ帰省する生徒は実は少ない。

「理仁はいつごろ家帰る?」
「あー……八月入ってから。あんま早く帰っても親にウザがられるし、学園祭の準備もあるしな。千歳は?」
「部活と大会あるから休み中ほぼこっちの予定。龍哉も?」
「うん、俺も。コンクールあるし、どうせ帰ったとこで家族とすれ違い確実だから」
「芸能人一家は大変だよなぁ」

二人みたいに部活で夏の大会のため居残るヤツが大半な一方、夏休み後すぐに学園祭があるからそっちの準備で残る生徒も多い。
生活に不便なところは多々あるが、なんだかんだでダチと寮で長期休暇を過ごすのは楽しい。なんといっても課題の消化で協力できる。
毎日往復してる場所なのに、授業のない校舎をうろつくのってどうしてあんなにワクワクするんだろう。

「そういや学園祭さ、千歳のクラスは女装喫茶決定だって?」
「おう。気合入れるからお前ら来いよな」
「どう気合入れるつもりだよ」
「すね毛の処理とか」
「うわ……」
「キモ……」

龍哉と俺がそろって同時に声を上げると千歳に肩を叩かれた。
なんで俺だけなんだよ。龍哉も叩けよな。

「お前らなにその反応!腹立つわー。んで、B組は何になったわけ?」
「カジノ」
「えっ……Bのくせになんか本格的で引く」

なんだBのくせにって。
いくつかあった案から多数決でゲームに決まったわけだが、ただのゲームじゃ芸がないからカジノって名前にしただけだ。
あと言うほど本格的にするつもりはない。せいぜいビンゴやトランプ遊びする程度っつーか。
そのとき、思い出したように龍哉が俺に顔を向けた。

「なぁ理仁、休み入ったら普通寮に帰ってくるって言ってたよな?」
「あ、うん……そのつもり、だけど」
「なんだ、今のまま仁科の部屋に住むんじゃねーんだ?」

意外ってニュアンスで千歳に言われて変なごまかし笑いが出た。

「まあな」
「ふーん?移動んときなんか手伝う?」
「や、荷物とかほとんど元の部屋にそのまんまだし、そんな手伝ってもらうほどじゃねーって」
「そっか。てか、俺らいなくても仁科の親衛隊が手伝ってくれるのか」
「……かもな」

そのことに関して天佑からは何も言われてない。元の部屋に戻れとかこのままここにいろとかいう類のことは、何も。
「夏休みに入るまででいい」っていう言葉の意味は、俺が自主的に出て行く前提だったのかもしれない。
それともうひとつ、何も変わらなかったらもう終わりにする、とも言っていた。
天佑にとって今は何か変わったんだろうか?俺は変わったと思ってるけど――そういう説明も一切ない。

実をいうと、俺はあいつに深鶴さんとの繋がりをいまだ聞けないでいた。
どの程度の仲なのかだとか気になることはたくさんある。
でも俺も俺で椎名に自分のインナーシャツを売り渡してまで得た情報だから、逆に聞き返されたりしたら痛い。
椎名の話によると、どうやら天佑はずいぶん前から俺の私物を守ってくれてたらしい。
知らなかったこととはいえ、俺がしたことはあいつのそういう気持ちを踏みにじったみたいでバツが悪い。

それに天佑が何を考えてるにせよ、深鶴さんがヨリを戻したがってるっていうなら俺がすることは決まってる。
断ること。今度こそ、きっぱり別れる。
自分の言葉でちゃんと伝えて、繋がりを絶つ。中坊当時みたいに半洗脳状態だったときとは違うから。
ただ、あの人の連絡先は全部消しちまったから、向こうから接触があったらっていう消極的な方法になるが。

「…………」

本当ならこのまま何もなければいい。
このまま何も知らないふりをして、他人の介入やタイムリミットなんて考えず天佑のそばで過ごしていたい。
なんともいえない心持ちで空になった弁当容器を片付けてたら、千歳からうちわを渡された。
反射的にそれを受け取って顔を上げる。

「俺、昼終わったらすぐバスケの試合あんだけど」
「なら俺らもこのまま見に行くよ。な?理仁」
「あ……ああ、そうだな」

龍哉に促されて頷いた途端「俺らも応援行きます!」「うっす!」という各務様親衛隊の合いの手が入った。
相変わらず元気がいいっつか暑苦しいな。

「それ、なくすなよ」
「え?」

千歳に爽やかな笑顔で言われてハッとした。
渡されたものをよく見たら、エロい感じの水着女子が描かれたうちわだった。アニメ絵の。

おいこらテメー!この恥ずかしいうちわを持ち歩けってのかよ!?拷問か!!

龍哉に押し付けようとしたら小刻みにブルブルと首を横に振られた。
どうにか返そうと頑張ったけど、千歳に「お前に俺のまちゅりんを預ける」ってやたらとイケメン顔で言われて諦めた。
まちゅりんって誰だよ。いや今期推しとか言われても知らねーし……。


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