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くすぐったいようななんともいえない感覚に足を暴れさせると、それも仁科の膝で押さえつけられた。
逃げるようにして顔をそらす。首筋に唇が滑ると同時にTシャツの中に熱い手が入ってきた。

「普通に、卓球とかしたけど……」
「ふぅん」

Tシャツをめくり上げた仁科は、俺の肌に何度も口付けた。首も、肩も、胸も、腕も、腹も。かかる息のくすぐったさで、そのたび俺はビクッと体を跳ねさせた。
ベッドの上でこれって、まあ、『そういう』つもりなんだろう。
それにしても不思議だった。仁科は禁欲中なんだと思ってたし、それが俺に向けられたことが。

「志賀ちゃん、腕上げて」

言うとおりにしたらTシャツがするりと脱げた。覆われていた布がなくなった心許なさで鳥肌立っている俺の腕を撫でさする仁科。
仁科は、俺の顔の横に肘をつき両頬を手で挟んだ。逃がさないと言わんばかりに。

「……ねえ、志賀ちゃん」
「なんだよ」
「あれから、誰かとエッチした?」

間近で零された刺々しい言葉にちょっと驚く。あれからってのは、仁科とやったときからってことか。

「……してねえよ」
「今も、キスフレしてるの?」

体育祭の最中、お前がするなって言ったんだろうが。言った本人が忘れてるわけじゃねえだろ。
それにしてもこんな風に責めるようなことを言うなんて仁科らしくない。だけど様子がおかしかったのはそういうことかと腑に落ちた。らしくないからこそだ。
遊び人の仁科が俺の素行を気にかけるなんて、窮屈な恋人みたいな真似をして。

「してない、誰とも」
「へぇ……?志賀ちゃん、雰囲気で流されやすいくせに?」

そうだな。俺はそういうところがあるよ。お前と寝たのだってそういう俺の迂闊さがあったからしたことだ。
お前はお前なりの愛情をもって俺を抱いたんだろう。でも俺は、そのときの流れと好奇心でしかなかった。
真上にある仁科の顔には笑みの欠片もない。だから俺も、その頬を優しく挟んで静かに囁いた。

「お前だけだよ、天佑」

キスをするのもセックスしたいと思うのも、お前だけ。
俺はもう逃げないって決めたんだ。自分の気持ちからも、お前からも――。

掴んだ顔を引き寄せてキスをした。そうしたら、一瞬食われたと錯覚するほどに深く唇が重なった。
舌を絡め、呼吸を奪い合うつもりで貪る。
それは以前みたいな戯れのキスじゃなかった。ぶつかりあって、求めあうような。なのに少しもズレがない。俺も天佑も、欲しいものがぴたりと一致してる。

「あ……っう」

天佑の唇があごの下に滑る。喉のあたりを執拗に食まれて苦しくなった。
暗いせいでほとんど視界が利かない。だからか伝わる体温と、甘い匂いと、荒い息遣いがよけいに際立つ。
心地いい口説き文句も優しい気遣いもない。それだけ天佑の欲情と興奮が直に伝わってくる。
乳輪のあたりを舐めまわされると、焦らされるもどかしさで天佑の肩に軽く爪をたてた。

「んっ……ぅ……」

乳首を舌先で押し上げられ、弾かれたら、そこが否応なく硬くなった。そのまま熱い舌で押しつぶされると高い声が出た。
そこはあんまり感じるほうじゃなかったのに、今の俺は与えられる刺激すべてが性感に繋がってる。
そうやって乳首を舐められている間に、天佑の手が俺の股間を包み込むようにして撫でた。
触られてはじめてパンツがじっとり濡れてるのを感じた。勃ってるのはとっくにだけど、まさか染みるほど先走りが漏れてるとは思わなかった。

「キツそうだし、下も脱いじゃおうね」
「ああ、うん……」

いや、そこは何も言わずに脱がしてくれていいんだけど。なんだか急に恥ずかしくなって自分でズボンとパンツをずり下げた。
俺が脱ぎはじめたのを見た天佑は体を起こし、同じくスウェットと下着を脱ぎ捨てた。
そういえばコイツの全裸って初めて見たかも。暗い中でも分かるくらい、上から下まで無駄なく引き締まってるのはジム通いの賜物なのか。
俺も起き上がって天佑の頭を引き寄せた。
キスをしながら指先で胸から乳首、腹をなぞり、股間に手を這わせる。むき出しのそこを握ってみたら、ガチガチに硬く、熱く脈打っていた。

実はひそかに、もしかしてED的な理由で禁欲中なのかと思ってた。
でも今、俺の掌の中でそそり立ってるのを確かめてホッとした。しかもそれが俺相手なんだってことに喜びが隠せない。
そう思うと気持ちが昂っちゃって無性に愛でたくなった。
数回手で擦ってから顔を近づけ、張り出したカリを舌で舐め回す。次に裏筋を下から上に舌先でなぞっていった。

「ん……」

頭の上のほうから艶っぽい吐息が聞こえた。
その声にゾクゾクとして勢いのままチンコを咥える。こういうのは躊躇ったら負けだ。
ところが、モノがデカすぎて口の中にうまく収まりきらなかった。自分からやっておいてこの情けなさ。
仕方なく上半分あたりをちゅぽちゅぽやってたら、後頭部を軽く押さえつけられた。

喉奥のほうまでグッと押し込まれる。そうすると塩気とも苦味ともつかないような独特の味が口内に広がった。
そのまま導かれるようにして天佑の手でフェラを助けられる。そうやって何回かやったけど、さすがに苦しくなってギブアップ。
頭を固定していた手がはずれると、ぷは、と詰めていた息が漏れた。ついでに唾液と先走りが混ざり合った粘液が糸を引いた。
それを舌で舐め取ってたら天佑の指で拭われた。

「ごめんね、苦しかった?」
「……まあな。別に、いいけど……」
「気持ちよかったよ。よくできたねぇ、理仁」

天佑は俺の頬を優しく撫でてキスをしてきた。名前を呼ばれながらの労うような口付けで全身の力が抜けていく。
正直、こうやって褒められるのに弱い。嬉しいやら照れくさいやらで体中が熱くなった。
キスをしながら徐々に体重をかけられ、再びベッドに背中が触れた。

「理仁……ちょっと腰上げて」
「う、ん?」

シーツと俺の体との間に仁科の手が入り、促されるまま腰を浮かす。すると空いたそこに厚みのある枕が置かれた。
下半身を天佑に向けて突き出す格好になったことで妙に気恥ずかしくなった。やることに異論はないがいざとなると落ち着かない。
ベッドサイドの棚から円筒形の小さいボトルを取り出した天佑は、俺の戸惑いが伝わったのかどうか、宥めるみたいな手つきで髪を撫でてきた。

「怖い?」
「いや……」
「大丈夫。気持ちいいことしかしないから、ね?」

そうやってトロトロに煮詰めたような甘ったるい声で囁くから、俺は素直に頷くしかなかった。


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