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六月も後半になると、期末テストに入る前に二学期の行事を見据えはじめる。早い話が学園祭の準備だ。
各クラスから実行委員を二人出す。生徒会執行部とかかわることが多くなる学園祭実行委員は、彼らの親衛隊にはひそかな人気職だ。
とはいえ業務内容は肉体労働が多いし拘束時間も長いしで相当ハードだけど。親衛隊員はつくづくドMだと思う。

そんなわけで本日、その最初の委員集会が放課後に行われた。
講堂に実行委員全員が集い、執行部、風紀委員、そして監査委員も同席中。
学園祭では体育祭以上に大規模な金額が動くから行事全体の把握のためって建前ではあるけど、実際のところ監査は実行委員なみに働かされる。例によって雑用で学園内を奔走するわけだ。

「――先の総会で公表した通り、今年の学園祭のスローガンは『不撓不屈』であり、困難にくじけない、何事も諦めず乗り越えてゆく強靭な精神をテーマとして掲げ、生徒一丸となって盛り上げていくわけですが――」

すらすらと歌うように万理小路副会長がプリントを読み上げる。今日も爪の先まで手入れの行き届いたまばゆい完璧な女装姿。
その隣では生徒会長が椅子にふんぞり返っている。天鵞絨張りで肘掛けつきのクラシックかつ豪奢な椅子に。
書記の後藤は背筋を伸ばして武将のごとき佇まいで前方の席にどっしりと着座し、会計の仁科は頬杖をつきながらボールペンをくるくると高速で回してる。なんだあの動き、すげえ。
庶務の有栖川弟がホワイトボードに文字を連ねていく傍ら、兄はその議事録をノートに筆記。早坂および補佐たちは、学園祭要綱の冊子を配ったりと雑務をこなしていた。
そんな執行部に対を成す形で、講堂の後方から風紀委員が睨みをきかせていた。俺ら監査はおまけみたいにそのさらに後ろの席に配置されている。

今日の会議内容をもとに、各クラスは実行委員主導で出し物を決めていく。
早いところでは期末テスト前に決まるが、最低でも夏休み前には出し物を決定しなきゃならない。
このダルい集会が早く終わんねえかなぁと欠伸を噛み殺したそのとき、副会長が全体を見回した。

「では次に、実行委員の役決めをします。まず本部から。委員長、副委員長が各一名、書記と会計は各二名ずつ」

これは挙手でさっさと決まった。ていうか全員執行部の親衛隊長の皆様。暗黙の了解による伝統みたいなものだから誰からも異論は上がらない。
この一癖も二癖もある執行部役員たちと密に連携しなきゃなんないんだから、普段から彼らと仲良しこよしの親衛隊に任せるのが一番だ。
会議のスムーズな流れにご満悦の副会長がエレガントに頷いた。

「大変結構。会の進行は、ここから本部に交代します」

実行委員長以下、本部役員がそれぞれに自己紹介をする。紹介なんてなくても親衛隊長の彼らは顔が広い有名人だからほとんどの生徒が知ってると思うが。
その様子を見てたら、ふと、ひょこひょこ落ち着かない金髪頭に気付いた。

……三春がいる。
A組からは三春が実行委員になったんだ。周りと比べてミニマムだから埋もれてて気付かなかった。
ていうかA組のもう一人って若林?
おい、A組大丈夫なのか。よりによってあの二人でいいのか。いや、千歳や滝もいるしクラスがまとまらないってことはないだろうが、他組のことながら超不安になる人選。
ちなみに二年のS組からは当然、萱野が参加してる。親衛隊長の萱野は本部の会計役に収まったようだ。D組の清水だとか、他にもちらほらと見知った顔があった。
知り合いの姿を辿っていくうちに、生徒会長親衛隊員で演劇部長の村岡先輩まで見つけちまった。そしてその隣に、頭一つ飛び出てる人が目に入った。あれ、なんか見覚えあるなあの人。

「あ」
「どうしたんすか?先輩」
「あれ、あの人。えーっと、田中先輩をデート権に指名した先輩……なんていったっけ?」
「ああ、望月?僕のクラスの実行委員だよ」
「そうそうそれだ、望月先輩」

やたらと背の高い人だっていうイメージしかなくて、先輩に言われてようやく名前を思い出した。あの人、田中先輩が監査として実行委員の手伝いをするからそれ目当ての参加か?よくやるなあ。
仲がいいのか悪いのか微妙な村岡先輩もセットだと思うと、田中先輩がちょっと心配になる。
三人でひそひそと話してたら、私語禁止とばかりに風紀委員長のでかい咳払いが聞こえてきた。

けっこう顔見知りが多いことを確認したあとは、最近眠りが浅いせいか本格的に眠くなってきた。
頬づえをついてウトウト目を閉じたとき、講堂のドアが、バン!と大きな音をたてて開いた。
不意打ちの衝撃で頭がガクンと滑り落ちた拍子に、びっくりして腰が浮いた。
にわかにざわつく講堂内、そしてドアに集中する視線。
俺も一時的に目が冴えて思わずうしろを振り返った。そこにいたのは、真っ赤なリーゼント頭の黒ボンタンのヤツだった。……鬼頭だ。

鬼頭は鋭くガンを飛ばしながらぐるりとあたりを見回し、体を左右に振る独特な歩き方で室内の真ん中を切り込んでいった。
なんだ、単身でカチコミか?……と思ったら、普通に着席した。
まさかお前も実行委員かよ!?なんで不良のくせに学園行事に意欲的なんだよ!遅刻してくるあたりはきっちり不良だが。
そういやコイツ、椎名と同じクラスなんだよな。もしかしてシラタマ関係で参加?いやいや、考えすぎか……。
突然の鬼頭の登場に講堂内が騒がしくなったが、副会長の「お静かに」のひと言で全員黙った。

「委員会は時間厳守です。以後、遅れないように」

注意されてもどこ吹く風で、鬼頭は大きく足を広げ、椅子の背もたれにふんぞり返って座っている。
すっかり目が覚めちゃって改めて前を見ると、ホワイトボードに係の割り振りについて書かれていた。

実行委員は各クラスでの指揮進行のほかに、大まかに『本部』『企画班』『広報班』『装飾班』の四つに分かれる。
本部は言わずもがな、いま決まったばかりの委員長以下幹部。全体の総指揮であり、先生方や執行部との主な中継役。
企画班は学園祭全体企画の準備と進行。広報班はポスターやパンフレットを作ったり、OB向けの広報活動等をする。装飾班は学園内の飾りつけやオブジェアートの制作が主な仕事。

班の代表はこれまた暗黙のうちにあらかじめ決まっていて、その他の人員は本部が手早く割り振りをした。
班分けは十分もかからずに終わり、それぞれに分かれて班長が説明を始める。

学園祭関連では、風紀は準備期間や祭当日の見回りや指導だとか生徒間のトラブル対応なんかをする。
一方で監査も、係の割り振り自体はされないが人手の必要なところの手伝いに駆り出される。

ぼんやりと去年の激務を思い出していたら再び眠気が襲ってきて、机に突っ伏したまま、俺は完全に眠りに落ちた。


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