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目覚ましのアラームを聞いたときの気分は最悪だった。
眠った感覚はないけど少しは寝てたらしい。目を開けたら外が完全に明るくなっていた。

仁科に何食わぬ顔で接さなきゃいけないってのはわかってるんだが、久々に思い出した過去のこともあって、胃の中が妙に熱くなってるような気がした。
……そうだ、思わず持ってきちまった水没したスマホ。あれ、もしかしたら仁科が朝起きてから回収するのかもしれない。
そんなことにも頭が回らないくらい昨夜の俺はよっぽどテンパってたみたいだ。
俺の手元にあるの、どう言い訳するかな……。
こうして迷っててもしょうがないし、二日連続で遅刻はまずいからのろのろと起き出す。
リビングに行くと、美味そうな匂いとともに見慣れた顔があって面食らった。

「志賀ちゃん、おはよう」
「え……萱野?」
「朝ご飯、もうすぐ出来るからね」

ぴしっと制服の上にエプロンを着けて、キッチンで上品に微笑む萱野の姿に一瞬思考が追いつかなかった。どうやら昨日に引き続き食事の用意をしに来たらしい。

「志賀ちゃぁん、おはよ」

ドアが開く音のあとにゆるゆるな甘ったるい声が聞こえて、つい背筋が伸びた。
スウェット姿に、寝癖なのかそういうスタイルなのか分からないくらいのふわりとした髪型の仁科。寝起きでもやたらと格好がついてるのは元がいいからなのか。

「……はよ」
「ねえ志賀ちゃん、リモコン取って」
「そんくらい自分で取れって」
「え〜そっちのが近いじゃん〜」

しぶしぶテーブルの上に置いてあったリモコンを投げると、仁科は片手で軽々と受け取った。

「ありがとー」

そうしてテレビをつけたあと、仁科はポケットからスマホを取り出した。
思わず声が出そうになったのを慌てて喉の奥に押し込める。
アクアリウムに沈められたものとそっくりだけど、今、仁科が操作してるスマホにはしっかりカバーがついている。
混乱しながら素早い動きをする仁科の手元を見ていたら、ヤツは笑いながら首を傾げた。

「志賀ちゃん、変な顔してどーしたの?」
「あ、や……つーか、萱野いつからここに来てたんだよ。お前が部屋の鍵開けたの?」
「あれぇ、言ってなかったっけ?学園に申請すれば合鍵一つだけ作れるんだよ。萱野ちゃんにはそれ預けてあるから」
「僕は不必要に仁科様の部屋に入ったりしないから、安心してね志賀ちゃん」

何をどう安心すればいいのかわからん。むしろ俺としては萱野にはずっといてほしいくらいなんだけど。
テレビから流れる音に合わせて鼻歌を歌いながらスマホをいじる仁科。それは昨夜の冷めた様子とは全く違った、俺が良く知ってるいつもの姿だった。
朝と夜とで性格が変わるんじゃないかってくらい正反対の人物に見える。
着替えてくるとかなんとか小さく言い訳しながら自室に戻ると、デスクの上にはやっぱりスマホがあった。仁科のところに瞬間移動したわけじゃないらしい。

あいつ、スマホ二台持ってたのか?同じ機種を?
何のために――。
試しに電源ボタンを押してみても反応しない。
沈黙するそれを、俺はしばらく睨みつけた。


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