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客が二人もいたんじゃ集中できないとばかりにこの日の委員会は早々に終わった。
何もしてない仁科が欠伸をしながら一番に席を立つ。そして俺を椅子から半ば強制的に立たせてスクバを押し付けてきた。

「はぁいお疲れ様!志賀ちゃーん帰ろー?」
「おいわかったから押すな。あ、お先です先輩、ミネ君」
「うん、また明日ね」
「お疲れ様っす!」

田中先輩、ミネ君と帰りの挨拶を交わす一方で、望月先輩は無言で小さく会釈を返してくれただけだった。
そんなやりとりもそこそこに、うしろからがっちり肩を掴まれ仁科に押される形で監査室を出た。
ちょうど部活動が終わる時間帯だったこともあり渡り廊下には結構な数の生徒がいた。
仁科の姿に気付いた数人が色めきたったが、当の本人は軽く手を振ってさっさと歩き出した。ついでに肩をホールドされてる俺も不本意ながら同時に歩くハメになる。

「あぁそうそう、言い忘れるとこだった。体育祭の志賀ちゃんのデート権の相手、あれ、他の人に代わってもらったからね〜」
「……え?」
「だからぁ、第一希望は志賀ちゃん指名だったんだけど、第二希望の方にしてもらったから。賞品もちゃんと渡してあるから心配しなくていいよぉ」
「え、あ、なんだよそれ。いつの間に……」
「志賀ちゃんが寝てる間に」

首をひねって仁科を見るとヤツはにっこりといつもと変わりない笑みを浮かべていた。

「なんで、お前がそんなことするんだよ」
「なんでって、志賀ちゃんの面倒事を減らしてあげただけ。指名した子は第二希望でも喜んでたけど〜?」
「……第二希望って誰?」
「カイチョー」

仁科がカイチョーと呼ぶのは生徒会長しかいない。会長か。そりゃ異存もねえよな。
しかし会長がよくそんなことを引き受けてくれたもんだ。あの人は押しに弱いヘタレだから、仁科がうまく言いくるめたのかもしんねーけど。

「志賀ちゃんは俺の部屋に泊まるんだからさぁ、デート権とか邪魔なだけだし」
「なに泊まることが決定事項みたいに言ってんだよ」
「あれぇ、違うの?」
「俺は頷いた覚えはねえよ」
「でも、俺の『お願い』聞いてくれるんでしょ」

こともなげに返されて返答に詰まる。「志賀ちゃんはそういう子だよね」と暗に言われているようだ。

「や……つーか、どうしてそうしたいのか、理由聞いてないし」
「ん〜?俺が志賀ちゃんといたいから?」
「テキトーなこと言ってんじゃねーよ」
「ほんとだって。どーして信じてくれないかなぁ」

うっわ、嘘くせえ。そうやって甘言を弄して誑し込むのはこいつの常套手段だ。
そんなことを話しながらも俺たちが向かう先は特別棟だ。
執行部と風紀はまだやりあってんのかな。いや、さすがに今日のところは解散だろうな。どっちもそこまで暇じゃないはずだ。

特別棟の玄関先まで来て、仁科がようやく足を止めた。一般生徒立ち入り禁止ルールがあるせいかこの辺りは極端に人が少ない。
生徒会室も風紀室も窓に明かりがついている。でも、人の気配は不自然なほど感じられない。
そんな中、ぽつりとした呟きが聞こえた。

「……志賀ちゃんのこと守りたいからって言ったら、信じてくれる?」
「は?」

それは確かに仁科の声だった。――守る?何から、何を?
突然聞かされたわけの分からない言葉にうろたえる。
仁科は俺の肩から手をはずし一歩先に出た。まるで、その先は俺の意思に任せるとでも言いたげだ。

「夏休みに入るまで。それまでに何も変わらなかったら、もう志賀ちゃんのこと構わないから」
「……仁科?」
「これで最後でいいから、お願い」

何を言ってるんだろう。変わらないとか最後とか、何のことだよ。
いつもと調子の違う、どこか冷たく聞こえる静かな声音で仁科が懇願する。曇り空の夕方は夜のように薄暗く、その表情ははっきりと見えない。
それに対して俺は、頷くかわりに一歩踏み出し、仁科の隣に並んだ。


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