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千歳は風紀委員に呼び出しされたらしい。もちろん千歳だけじゃなくて秘密基地同盟の三春と愉快な仲間たち全員が。
月曜早々からお小言なんて風紀委員長も苦労が絶えないな。相手がほとんど執行部メンバーだから説教は昼休みだけじゃ終わらないだろう。

そんなわけで、俺と龍哉は千歳抜きの二人で監査室に来ていた。あんまり他の耳のあるところで話したい内容じゃなかったから。

気分は悪いが腹は減ってるので、購買で買ってきたおにぎり三つを腹に収めた。
一方で龍哉は昼飯に手をつけず俺が話し出すのをじっと待っている。いきなり深鶴さんの名前を出したのはまずかったな。
昼休みも有限だから、食い終わったあとはすぐに話を切り出した。

「――で、話は昨日にさかのぼるんだけど」
「……うん」
「お前らと別れたあと、仁科に呼ばれてたんであいつの部屋に行ったんだよ。それで……てか、ちょっと聞きたいんだけど、龍哉ってあいつと中等部のとき喋ったことあった?」
「仁科と?や、全然」

少し嗄れた声を出した龍哉は、口の中が渇いていたみたいでペットボトルの緑茶を一口飲んだ。龍哉の手からそれを取り上げて俺も同じようにして飲む。

「仁科ってさ、中等部の頃から俺のこと知ってたらしいんだよね」
「……お前、当時から仁科と何か接点あったっけ?」
「ねーよ。会ったことも喋ったこともこれっぽっちもない。……んだけど、向こうは俺のことを知ってて、それで……何故かしばらく仁科の部屋に泊まることになったっぽいんだけど」
「は?」

自分で喋ってて支離滅裂だと思った。聞かされてる龍哉はもっと意味がわかんねえだろうな。その証拠にポカン顔を晒している。

「理由はまだちゃんと聞いてないけどそういうことになって、そのときに仁科から深鶴さんの名前が出てきて、んで、昨夜はあいつの部屋でそのまま寝てた」
「もうちょっと分かりやすく言ってくんない?」
「……そもそものきっかけがさ、とある情報筋から仁科が俺のことを変に気にかけてるって聞かされたことなんだよ」

そこから状況を整理しつつ話していくと俺自身もようやく落ち着きを取り戻してきた。
龍哉が時々相槌を打ちながら黙って聞いてくれたのも功を奏して、話を終わらせる頃には幾分かすっきりとしていた。

「そういうわけで、今日は寝坊してメール返せなかったんです。おしまい」
「……で、仁科と深鶴さんがどう関係してるわけ」
「わかんねー。別に、聞かなかったし」

聞けなかったっていうほうが正しいかもしれない。
深鶴さんと仁科が知り合いだとか、そんな話は聞いたことがない。そもそも俺が深鶴さんのプライベートについて知っていることは少ないように思えた。今だから、そう思う。

「ふーん、あの人と仁科か……全然繋がんないな。イメージ的に」
「だよな。俺もいきなり名前出てきて驚いた。だからもしかして龍哉経由かと思ったんだけど」
「俺じゃないって。……それで、理仁はヨリ戻したんだ?仁科と」
「へ?」

今度は俺がポカンとする番だった。龍哉がさも当然のように言うから俺のほうが何か間違ってるのかと錯覚した。

「あれ、違った?部屋に泊まるとかお前の元彼の話だとかが出てくるからてっきり」
「いや……いやいや!なんだよヨリって!俺とあいつ付き合ったことすらないけど?そもそもそんな話したことなかったよな?」
「はぁ?お前ら付き合ってなかったの!?」
「ねーよ!!」

びっくりされるほうがびっくりだわ!
俺のほうは、そりゃまあ好きだったけど。ってそれ自覚したのも結構最近だけど。今も――正直好きだけど。

ああそうだよ、仁科にずっと前から気にされてたって知ってどこか嬉しかったし、今朝も鍵が置かれてるの見た瞬間、妙な優越感があった。
あいつにそういう『お前が特別』っぽいことされてキュンとしないわけがない。仁科は誰にでもそういうことするヤツだが、そうだとわかっててもときめいちゃうのが厄介な恋心。

まだわからないことばっかりでもやもやした気持ちは晴れないのは確かだ。俺の知らないところで個人情報を握られていて気味が悪いと思うこともある。
だというのに、俺は――。

「マジかよ……。お前らって去年から付き合ってて、春休み中に別れたんだと思ってた」
「ないない全然ない!つーかなに春休み中って。どーしてそこピンポイントなの」
「え?仁科と同室解消のあとお前がやけにピリピリしてたから、そうかなって」

あれか、仁科とヤっちゃったあとのことか。むしろそのあたりから好きだって気付いたくらいなんですけど。

「えぇー……すっげー誤解もいいとこなんだけど。どうしてそう思われてたのかわかんねえ」
「どうしてあれで付き合ってなかったのかそっちのがおかしい。部屋行くたびにお前らイチャついてるし、これ見よがしに仁科の香水の匂いさせてたし」
「それは……」

異様に人との距離が近い仁科と普通に接してたのをイチャついてたっていうならそれは勘違いも甚だしい。それにあいつと同室なんだから匂いが移ることくらいあるよなあ。
俺がどうやって言い訳しようかと考えているうちに龍哉は顔をしかめてこぶしを握った。

「……お前が仁科との付き合いに納得してるなら、相談されない限り口出すのは野暮かと思ってたし、見た感じ深鶴さんのときみたいになってなかったから何も言わなかったけど」
「…………」
「でもお前がちょっとでもつらい思いしてるっていうなら、俺はあいつを許さないよ」
「龍哉」
「これ、千歳も同意見だからな」

お前らは俺の保護者か。


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