102


仁科がカップを持ち上げて少しずつカフェラテを飲む様は、嫌味なほどいつも通りだ。
透明な耐熱カップを睨みつけてるだけじゃ話は進まない。

「それで、俺になんの用だよ」
「ん〜……先に志賀ちゃんからどぉぞ。俺に言いたいこといっぱいって感じするし」

ああ、いっぱいだよ。溢れすぎて吐きそうだ。

「……お前、さ、俺のこと、いつから知ってたんだよ」
「んん?どーゆーイミ?」
「中等部の頃から俺を知ってたって、マジ?」
「うん。マジ」

明日の天気の話のように軽い調子で返される。
椎名の言っていたことが、若干半信半疑だったのに本当のことだとわかって複雑な心境だった。
最初に聞かされたときほどの衝撃はないかわりにずしりとした現実感がのしかかってくる。

「でも……俺とお前ってその頃、全然喋ったこともなかったよな」
「そーだね」
「じゃあ何で」

妖艶な笑みを浮かべる仁科。カップを置いて足を組むさりげない仕草さえ、計算でもされてるみたいに綺麗だ。

「そこまではあのヘンタイに聞かなかったの?」
「知らないって言ってたけど。つか、椎名のこと……椎名で合ってるよな?なんでヘンタイって呼んでんだよ」
「えぇ〜ヘンタイはヘンタイじゃーん。志賀ちゃんが俺の情報と引き換えに何を対価として与えたかわかんないけど、なんとなく予想つくし」

てことは、仁科は椎名の限定的特殊性癖を知ってんのか。それはそれで微妙な気持ちになる。

「志賀ちゃんはぁ、そこまでして俺のこと知りたかったの?」
「……なんつーかさ、お前やることがいちいち思わせぶりっつか、怪しいんだよ。聞いてもはぐらかすばっかだし」
「そぉ?」

仁科が心外とでも言いたげに首を振る。

「俺は志賀ちゃんのことが好きだから、色々してあげたいだけだよ〜」
「してあげたい?……お前の目的ってなんなの?お前、マジで何なんだよ。わけわかんねーよ」
「ふふ、気になる?」
「……ああ」
「だったら俺のお願いも聞いてほしいなぁ」
「は?なに、お願いって。やだし」
「あのヘンタイのお願いは聞いてあげたのに?たぶんパンツとかそのあたり」

バレバレじゃねーか!気まずいってレベルじゃねえ!
仁科と椎名の関係がますます不可解だ。仲良くなさそうでいて通じ合っちゃってる感があるんだけど。
恥ずかしさとか居心地の悪さとかで意味もなく唸ってると、突然デコピンが飛んできた。気がついたら隣に仁科が座っている。

「いてっ」
「……ほんっと、志賀ちゃんのバカ」
「な、なにすんだよいきなり」
「むかつくって言ってんの。どーしてあれにそんな軽々しくあげちゃうかな〜。せっかく俺が――」

どうやら失言だったみたいで、仁科は閉じた口を笑みの形にして誤魔化した。

「お前が、なに?」
「なんでもなーい」
「テメ……あーもういいや。それで、お願いってなんだよ。どうせろくでもねーことなんだろうけど一応聞いとくわ」
「んふふ志賀ちゃんやさし〜大好き。えっとね、志賀ちゃんにはしばらくこの部屋で寝泊りしてほしいんだぁ」
「……は……?」


prev / next

←back


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -