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二重の意味で人に言えない椎名の秘密を知ってしまったからには、部屋で二人きりってのも落ち着かないので龍哉と千歳を呼んだ。もちろん事情はぼかして。
龍哉から物言いたげな視線が飛んできたが、黙殺する。

四人で『つるたや』に行き、適当に飯を買ってきてリビングで食べることにした。
ちなみに若林は俺が声をかける前にすでに食堂に行っていた。学食無料期間中にその権利をフル活用して、メニューを片っ端から試したいらしい。日替わり以外はそんなに変化ないからすぐ飽きると思うけどな。俺としては若林が作る純和風料理のが好きだけど。
一方で椎名は無料券にさほど魅力は感じてないようだ。詳しく聞いたことはないが椎名の家は結構な規模の会社らしいから、ほとんど毎食食堂を利用しても経済的に余裕みたいだ。
こっそり教えてもらったんだけど、椎名は極力人の集まるところにいるようにしてるんだとか。そこから入ってくる情報もなかなか役立つよ、と言って優しく笑う椎名に得体の知れない不気味さを感じた。
シラタマ――ますます謎の組織だ……。そもそもその名前は誰がどんな由来で付けたんだ。


昼飯のあとはコントローラーを増やして四人でゲーム。
ところがいつのまにかテレビの前にアニメのブルーレイディスクのボックスが積み上げられていた。そしてなぜか再生されている。さらになぜか興味津々の椎名。
椎名はアニメを熱心に見ながら、千歳からストーリーやキャラクターのよくわからん説明を聞いてはいちいち頷く。
そんな二人は放っておいて、俺はスマホ、龍哉は雑誌を読みながらとりとめのない話をした。若林は一人で読書に熱中してたから声をかけなかった。

そうやってあんまりいつもとかわらない休日が過ぎていく。午前中に聞かされた暴露話が嘘のような穏やかさ。
夕方くらいになって、アニメを一時停止して冷蔵庫をのぞいた千歳が首を傾げた。

「なー理仁、牛乳ねーの?」
「マジで?終わってる?」
「ないない」

千歳が牛乳のパックを左右に振ると、たしかにぽちゃぽちゃと残りコップ一杯分もないような音がした。
牛乳は賞味期限が短い関係上若林と共同で飲んでるから減ってるの気付かなかった。
つるたやにすぐに行きたいところだが、デート権執行中のため一応椎名にお伺いを立てないとならない。

「椎名、ちょっと牛乳買ってきていい?つかお前も行く?」
「別にいいよ。部屋で待ってる」
「俺の部屋漁るなよ?」
「ははは」

冗談っぽく言ってみたけどかなり切実な釘差しだ。否定しないところがまた怖い。
まあ千歳も龍哉もいるから大丈夫か――と思ったが、読んでいた雑誌を閉じて龍哉が腰を上げた。

「俺もなんか食いもんほしいから一緒に行く」
「あ、そう?」

俺が龍哉と一緒に部屋を出る前に、読書を終えた若林が顔を出した。
千歳がアニメ見てると言ったらこれまた興味津々な顔をしたから、リビングに移動して三人での鑑賞会が始まった。

「椎名がオタクになったらどうしよう……」

廊下を歩いていたら龍哉が心配そうに言った。

「別にいいんじゃねーの。オタクになるくらい」
「……つか理仁。結局どうだったんだよ」

何が、とは言わないけどわかる。椎名のことだ。
俺の私物が変な目的で持ってかれていたことを龍哉に知られるのはかなり恥ずかしいし、なんとも居心地が悪い。
どうせ龍哉経由で千歳にも椎名のことは伝わるだろうから、そんなことになったら余計面倒だ。
ツレだからって全部を正直に話す必要はないとは思う。
それでもどう話したもんかと、あーとかうーんとかしばらく唸ってみたけど、龍哉には協力してもらった手前、やっぱり報告する義務がある。

「……なんか、やっぱ椎名だった」
「それで?」
「や、その……それだけ」
「いやがらせ?ストーカー?」

さらりとその単語が出てきたことに驚く。
龍哉はそういう風に人を疑うことをしなかったから尚更だ。

「どっちでもねーよ。あえて言うなら……好奇心?」
「なんだよそれ」
「わり、椎名の個人的な事情でこれ以上言えねーんだわ。ただ、マイナスの感情があるわけじゃないから。俺にも、椎名にも」
「それはまあ……見てれば分かるけど。じゃあ解決したんだな?」

曖昧に笑って頷く。事情が分かっただけで俺的に解決にはなってないんだけどな。
龍哉が小さく安堵の息を吐く。椎名と同室でおまけに部活も同じなだけに、安心したようだ。
本当のことを知ったら気まずいどころの話じゃねーだろうけどな。


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