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バレたことで開き直ったのか、椎名はご丁寧にも顛末を説明をしてくれた。

「志賀、ジャージに着替えてた日があっただろ?部活前に新しいオカズを補充しようと思ったらカバンの中にシャツがあったから。汗の匂いが濃くて、つい出来心で」
「つか勝手に持ってくってそれマジでムカつくからな。シャーペン借りパクくらいなら別にいいけどさ」
「うん、それは悪かった。でも素直に言ってもくれないと思ったから」

そうだけど。「お前の私物でシコりたいから何かくれ」と言われても、そんなん不気味で俺泣いちゃうわ。正直今すぐ泣きそう。
つーかうっかり聞き流すとこだったけど俺の持ち物をオカズと言わないでほしい。俺にしてみれば普通に正しい用途で使用してる物ばっかりだからな?
いつからそんな危ない性癖だったのか聞きたいけど聞けない。聞いたら俺のメンタルが死ぬ気がする。

「……そんな顔しなくても、俺は志賀自身をどうこうしたいなんて思ってないから」

よっぽど変な顔をしていたようで、椎名が苦笑しながらテレビに向き直った。何事もなかったようにゲームを再開する。

「気まずいなら大友呼ぶ?各務でもいいけど。それか、同室の若林君」
「いや……」

千歳や若林はともかく龍哉には色々と協力してもらった手前、椎名のことを説明しなきゃならない。だけど、内容が内容なだけにものすごく説明しづらい。
24時間デート権――俺にとっては罰ゲームに等しい。

「まあ、どうせ夜にはデート権終わらせなきゃいけないから」
「え?」

椎名がアクションゲームをやりながら言ったことに首を傾げる。
たしかにルールではデートを終わらせる時間は自由だが、どうして夜指定なんだ?「終わらせなきゃいけない」という言い方もおかしい。
何と言葉をかけるべきか迷いながら椎名の背中を見つめていたら、彼が少し振り返って俺を見た。

「夜にはお前を解放するよう仁科に言われてるからね」
「はっ?仁科?」

突然出てきたその名前に動揺する。
昨日萱野から夜に迎えに来るとは言われてたけど、まさか昨日のうちに手を回したのか?あいつ、用意周到すぎないか。

「……お前と仁科って仲良かったっけ?」
「いや?でもお得意様だから逆らえなくて」

また不可解な単語が出てきて呆然としていると、ゲームを一時停止した椎名がジュースの入ったカップに手を伸ばした。
炭酸ジュースを一口飲んだ椎名は、見慣れた優しい笑みを俺に向けてきた。

「そうだなあ……志賀には色々と豊かな自慰ライフを提供してもらったお礼に、少し教えようかな」
「提供した覚えはねーしそこはお詫びって言ってほしいんだけどマジで」
「はは。――シラタマ、って言ってわかるよね」
「え?ああ、情報屋の?」
「そうそれ。俺はシラタマの現・元締めでね」
「はぁ!?」
「仁科は、俺達と専属契約してる大口顧客ってとこかな」

口がぽかんと開きっぱなしになった。ええと、何だって?椎名がシラタマのリーダーで、仁科がシラタマと専属契約してるって?
椎名はいつも通りの落ち着いた態度と喋り方で、目の前にいるのが情報屋組織のアタマだと言われてもにわかには信じ難い。

「せ、専属契約って……何を?」
「それは顧客情報だからいくら志賀でも教えられないよ。……ただ、情報屋だからね。報酬によっては売ってもいい」
「なんだっけ、情報料一律千円?」
「いいや、上客の情報はそんなに安くないよ」

仁科はいつも俺を煙に巻くようなことを言う。それがシラタマによってもたらされる情報なのだとしたら、俺もあいつを出し抜いてみたい気持ちになった。
けど、さすがにプライバシーに関わることだし万単位の料金になるか。そんな小遣いは……ないとも言えないが、考えてしまう。

「参考までに聞いていいか」
「なに?」
「おいくらですか」
「――志賀が今穿いてるボクサーパンツ」

椎名は、出会ってから今までで一番ってくらい真剣かつ精悍な表情を見せた。
……ちょっと待て。どうして俺がボクサー使ってるって当然のように知ってるんだよ!!


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