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翌日の日曜。朝食も学食で済ませたいという若林は、顔を洗ってすぐに食堂へと行った。俺はいつも通り自分で朝飯を用意してトーストをかじる。
今日は朝から曇天だった。もうすぐ本格的な梅雨入りだからこんな天気も当然とはいえ、俺の心境を反映したような空模様は皮肉に思える。
朝飯後に洗濯籠を抱えてランドリーに行くと、滝に会った。

「はよー滝」
「おはよ。昨日言ってたゲームどーする?」
「あ〜……お前の部屋に寄ってこうかな」

椎名との暇つぶしのためにゲーム機を千歳から借りようとしたら速攻で断られた。千歳はゲーム機を持ってるが、それでDVDやBDを再生するから貸し出しはできないと言われたのだ。
だから昨夜のうちに滝にメールしてハードとソフト両方貸してくれと伝えておいた。もういっそ俺もゲーム機買うかな。でもそんなにやんねーしな……。
洗濯機をセットして備え付けの椅子に座ると、読んでいた雑誌を閉じた滝が俺の頬をつついた。

「……何すんだよ」
「や、浮かない顔してんなーと思って。昨日のアレ?」

昨日のアレとは食堂で起こったことと、一連の事情を説明したことを指してるんだろう。風紀委員長による厳しい詰問のなか洗いざらい吐かせられた。
結果、三春と愉快な仲間達が密かに作っていた秘密基地まで喋らざるを得なくなった。
北條先輩はそのことを知らなかったようで「即刻現場を確認する」と言って顔を引きつらせたのだが、あの様子だとおそらく風紀主導のもと取り潰す動きになるだろう。
執行部の権限で存続するか、風紀が強硬手段を駆使して元の廃物置に戻るか――その決着は今はまだ分からない。ヤツらがそこまで力を入れた秘密基地なら一度見てみたい気もするが。

「ま、秘密基地の件は志賀に言われなくてもそのうち発覚してたでしょ。夏になるとあのへん人増えるし」
「別にそのことはどーでもいいんだけど」
「え、じゃあなに、悩み事?」
「そーそー」
「よし俺が相談に乗ってやろう。話しなさいさあさあ」

滝のわくわく顔を見てげんなりとする。からかうネタにする気満々だ。

「やだね。お前、相談に乗るってツラしてねーよ」
「うっわ失礼だなー。これでも人望厚い風紀副委員長なんだけど?」
「その肩書き今関係あるか?……どっちにしろ、あんま人に話せることじゃねーし」

そう突き放すと滝がお得意の人好きのする笑みを浮かべた。

「志賀は色々抱えてんね」
「は?」
「ま、耐えられなくなったら俺んとこ来なさい。大友や各務に話せないこともあるだろうし」
「何それ」

滝の手が俺をポンと叩く。それから乾燥が終わったらしい洗濯物を乾燥機から取り出して蛍光色のバスケットに放り込んだ。

「――志賀は自分のことを知らなさすぎだよ」

囁かれたその言葉の意味を問う前に、滝はランドリールームを出て行ってしまった。
洗濯を終えて滝の部屋に行くとヤツは食堂に行ったらしく不在で、代わりに滝の同室者が言付かっていると言ってゲーム一式を貸してくれたのだった。



自分の部屋に戻ると、若林と――椎名の姿があった。若林が食堂から戻ったそのタイミングで椎名が来訪したようだ。
椎名とは喋ったことがないらしい若林が緊張の面持ちで所在なさげにしていた。一応昨日のうちに椎名のことは伝えておいたんだけど。

「あ、椎名もう来てたんだ」
「うん。別にすることもないし」

にっこりと柔和な笑みを俺に向ける椎名を見て、若林はそそくさと自室に引っ込んで行った。どうやら若林にとって椎名は苦手な部類らしい。

「とりあえずこれ借りてきたんだけど、やる?」
「ゲームか……俺、反射神経鈍いけど出来るかな?」
「協力プレイとかあんじゃん?そーゆーのならいけるんじゃね」
「うん、いいね。面白そうだ」

滝から借りてきたゲームを差し出すと、椎名はソフトを一枚手にとって裏表ひっくり返しながら見た。
俺もそんなにゲーム得意ってわけじゃないから、簡単そうなレースゲームやアクション、格ゲーを適当に見繕ってきたんだが。

「一応デートだし、俺の部屋でやるか?」
「そっか、デートね。せっかくだからそうしようかな?」

リビングには大きめのテレビがある。仁科と同室だった頃から使っているテレビは、あいつが置いていったものだ。
それとは別に自分の部屋にも小さいテレビが置いてある。個室にまで配線が行き届いている、この学園のありがたい配慮。
デート権ってこんな緩い感じでいいのか?と思いつつ椎名とゲームを始める。菓子やジュースも用意してもはやこのまま引きこもりそうな勢い。
消極的な椎名だったがなかなかスジが良くて結構盛り上がり、そのまま二時間ほどゲームをやり倒した。

しばらくしてからジュースのおかわりを冷蔵庫から取ってくると、椎名は一人でゲームを進めていた。
そんなヤツの背中に向かって、カップにジュースを注ぎながら話しかける。

「あのさー、椎名」
「なに?」
「俺のシャツ、とか……返してほしいんだけど」

さりげなさを装いつつそう言うと、椎名が不自然な仕草で動きを止めた。


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