涙と贈り物
ぱっと鏡に写るのは自分じゃないみたいだった。
「…だれおま………ぷっ、ふふっ。
あっはは!マジで誰だよ!ウケるー!」
鏡に写る自分が違い過ぎて笑いが込み上げてきた私は、もう笑うしかない。鏡の中の自分を指差して爆笑。
髪の毛はやはりさらさらのチョコレートブラウンで、顔は変わってなかった。神様とやらが似せてくれたのかな。顔が違うとホントに自分なのかも疑うから、その辺はまぁ良かった。…若干幼い感じなのは気のせいではないんだろう。
それより1番驚いたのは目の色だ。
「綺麗…」
私は鏡にへばり付いて自分の瞳を覗き込む。
―――深海みたいに濃い青。日本人顔の私でも違和感ない程に濃くてきらきらしていて、宝石みたいな―――。
つぅ、と涙が一筋頬を伝った。
別に目の色に感動した訳ではない。自分の姿が変わり過ぎていたから。
――もう"無い"んだ、と理解してしまった。
何が、とは分からないけどそれは多分、家族だとか友達だとか人生で積んだ経験だとか。
とにかく、私の今までの全てが。もう、ここには無いんだと。胸にぽっかりと穴が空いてしまったような気がした。
しかし涙はそれ以上流れることは無かった。
****
5分もなかったと思う。暫くして、私が若干しょんぼりしたまま帰ると、イケメンさんは少し驚いたあと困ったように笑って肩を竦めた。
「……大丈夫か?」
「…うん」
私は軽く笑って、とてとてとベッドまで戻りそのままぼふんっと腰掛けた。
暫く微妙な空気の中、二人とも黙っていた。が、いきなり頭を撫でられたので、びっくりして顔を上げるとイケメンさんが優しく微笑んでいた。私は驚きながらも何故か嫌では無かったし、むしろ心地好かったのでそのままにしておいた。
「……泣きたきゃ泣けよ。
一気に色々話したからな。無理もねぇ」
「…………ありがとう…」
私は決壊するように泣きわめくでもなく、静かに涙を流した。ただ事実を受け止めようと混乱した心の整理をしていた。
イケメンさんはその間もずっと頭を撫でてくれていて、私はいつの間にこんなに心を許したのかと思いつつも、それは有り難かった。
「……ねぇ」
私は少し心の整理が付き始めた頃、徐に口を開いた。気になってた事を聞く為に。
「私は、これからどうすればいいの?」
「ん?あぁ…。
神様はお前が好きなようにって言ってたから、玲が好きなようにすればいい」
好きなように、って言われてもねぇ…。
どうしようか悩んでいると、イケメンさんがポンッと手を打った。
「あ、そうそう忘れてた。
神様からお前に預かり物だ」
「え?神様から?」
何だろうと思いながらイケメンさんからその預かり物を受け取る。キラキラした水色の紙…のようだ。短冊みたいなそれが三枚。私が首を傾げているとイケメンさんは言った。
「それはトリップ特典、らしい」
「え、まじで?」
「…トリップ特典を知ってるのか?」
「うん、多分」
あの、願い事が叶う的なアレでしょ。勝手に叶ってたり、神様に直接叶えてもらったり、色々みたいだけど。
「なら話は早い。その紙に願い事を書けば即時に反映されることになってる。三枚だから特典は三つまでだ」
「成る程ー。
……ってコレ、私が使っていいの?」
「当たり前だ。
神様が不運なお前に特別に、らしいから」
「………不運って…」
はは、と苦笑い気味に呟く。
「とりあえず説明は以上だ、と思う」
おいおい、曖昧だなー。さっきも預かり物のこと忘れてたとか言ってたし。大丈夫なのかな。
「…あ、もう一個大事なこと忘れてた」
やっぱりかお前。
「俺もここに住むことになったから。お前に不自由がないように、って神様に言われて」
「ふーん……って、え?」
はぁ!?一緒に住む?!
(神様からの贈り物)
(私そんなことお願いしてないよ)
−−−−
ちょっと七夕とかけてみたり。
20120707
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