1周年記念:中編:白石忍足財前 | ナノ
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蹴散らせメランコリック

私達は、前よりもちょっと忙しい日々をすごすことになった。文化祭が近づいてきたのだ。クラスの出し物や部活の催し物で4人それぞれで動き回っている。といっても、写真部の私は自分がこれまでカメラに収めてきた写真を現像して展示するものをその中から選ぶだけなのでそこまで動きまわってはいないのだが。それはテニス部3人も同じようでテニス部は自由主義者が揃っているせいなのか協調性がないというのだろうか、漫才やりたいたこ焼き屋やりたいカラオケ喫茶やりたいジブリ鑑賞会やりたいと意見が一致しなかったせいで各自やりたいことを自由にやれと顧問が決めたらしい。なので結局テニス部の出し物は一氏と金色のお笑いライブになってしまったらしい。クラスの手伝いが終わると、私達は決まって音楽室に集まるようになった。そして空が真っ暗になるまで音楽に没頭した。
白石は書き溜めた詩をまとめて一つの歌詞へ、歌にした。財前がそれに合わせて曲を作る。この詩に合うメロディーからコードを探すとかなんとか言っていたが、作曲という作業に疎い私にはさっぱりだった。
とりあえず曲作りというのはギターをジャカジャカすることから始まるらしい。
忍足が、一曲を作るまでの大まかな流れを教えてくれた。
まずは大まかなメロディ、サビになる部分を考えるのだそうだ。白石が普段している鼻歌がそれらしい。
そうして出来上がったサビから基本アレンジというものを加えていくらしい。この時点で私の口はぽかんと半開きになってしまった。アレンジって大体のメロディってことでいいのか? コードを決めていくってことなのか? 同じことなのか?
とりあえずその次に1番2番と作っていくらしい。イントロからエンディングまでかなり音楽が重なりあっているということだけは理解できた。曲を考えるって大変なんだなあ。メロディが出来たらそれに歌詞を重ねてミックスするらしい。
今回、歌詞が先に出来上がっちゃった感じだけど大丈夫なのかしら。そう忍足に問うと、財前のセンスが何とかするやろと笑った。こいつ結構アバウトだぞ。

数日後、財前が曲を披露してくれた。私達は絶賛した。財前は目の下にくまを作りながら嬉しそうに笑った。それから忍足はベースを財前はドラムを、白石はボーカルをそれぞれで担当して練習を始めた。ステージはもちろん軽音の人や演劇をする人たちが使っているので、軽音部の人たちのご厚意というか、言ってしまえば彼らのおまけというか準備が完了するまでの時間稼ぎな私達がステージを使えるわけがないので普段どおり音楽室での練習だった。ちょっと窮屈ではあったけど、4人揃う音楽室での練習はとても楽しかった。まあ私は練習には関係なくて、完成に近づく彼らをカメラに収めていただけなのだけど。そこが少しだけ歯がゆかった。

夕日が沈んで外が真っ暗になった頃、その日の練習は終わった。財前と忍足はベースとドラムの話で盛り上がりながら音楽室を後にした。私はというと、白石にちょっとええかと引きとめられ未だ音楽室に備え付けてある椅子に座って時計の針が動く音に耳を傾けていた。
白石は、暗いから送るわ、と言って私を立たせた。

「最近な、テニス出来てへんねんけど」
「うん」
「圧迫感みたいなん感じへんねん、窮屈やなーとかも思わんし」
「………」
「たぶん好きなこと出来てるからやろな」
「……そうだね」

楽しそうに話す白石の横顔を盗み見るとその表情はやはり楽しそうで、私も嬉しくなった。

「なあ、」
「うん?」
「自分、ギターやらへん?」
「……はい?」
「はい?やなくて…ほら、俺ら今3人しかおらへんやん」

財前はベースやろ、謙也はドラム、俺はボーカル…ギターほしいんやけどなぁ。
私の足が止まる。白石の動きも止まる。
私が彼らの中に入るの? 3人と同じ目線で立てる理由をくれてるの?
それは、私が望んだことでもあるけれど…。白石は私が度々寂しいと感じていたことに気づいてくれていたのだろうか。きっとそうだ。じゃなかったらきっとこんな誘いなかった。仲間はずれにされているわけじゃないのに、そう感じてしまう私を白石は見抜いていた。

「4人でステージ立たへん?」
「…………」
「…………」

ゆっくりとだけど大きく首を横に振る。違うんだよ、やっぱり。やっぱ寂しいと感じても、みんなの隣に並びたいけど、そうじゃなくて。私は本当は

「…3人を撮りたい…」
「…………」
「一緒にステージに立ちたいけど、白石たちを一番近くで見るなら、焼き付けるなら私は白石たちの目の前でカメラ構えてたい」
「……なんやそれ」
「嬉しいけど、私がやっぱり、やりたいことは…」
「ほんま自分らしいわ」
「えっ…!?」

くしゃりと頭を撫でられる。穏やかな表情をしている白石は嬉しそうで少しだけ寂しそうだった。

「誰かに伝えたい、自分が覗いた先の思いを伝えたい」
「…そ、なん、」

私の心の中を代弁するように白石はすらすらと言葉を繋げて行く。自分の気持ちを言い当てられていることに混乱を覚えながら白石に目をやる。何で考えていたことが伝わっているんだろう。

「去年俺に言うたやろ。カメラを覗くんはその時の気持ちを誰かに伝えたいからやって」

私が、白石にどうして写真部と新聞部をわざわざ兼部しているのかと訊かれた時に熱弁した内容を白石は覚えていてくれた。そのことに驚きつつ覚えててくれたことが嬉しくてチクリと目の奥が痛くなった。

「俺らのこと、ちゃんと見ててや」