1周年記念:中編:白石忍足財前 | ナノ
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息を潜めて待っている

音楽室に集まる回数が増えた。テニス部が休みの日は必ず集まるようになっていた。写真部は基本自由にやっているし参加日などもあまりない。2週間に1回とか3週間に1回集まって撮った写真を見せ合って意見を交わしたりするくらいだった。新聞部は割りと忙しい方ではあったもののテニス部の休みと重なることはあまりなかった。

そんなある日、忍足は音楽室の準備室の奥からドラムを引っ張り出した。長い間使われていなかったそれに被せられていた黒いカバーを脱がせばちょっと古くなったドラムが姿を見せた。忍足は嬉しそうにドラムスティックを握った。その笑顔を、私はレンズ越しに見て、心の中がざわつくものを感じた。

財前がギターを弾く。以前より格段に上手くなっていた。財前は得意げに「謙也さん、合わせてくれません?」と忍足に言った。ええで、と二つ返事をした忍足はスネア・ドラムと呼ぶらしい椅子の目の前にある小さめのドラムを叩いて見せた。白石は私と一緒に机に頬杖をつきながら二人を見守っていた。
音が室内に響く。白石は二人を見ながら指で机をトントン叩きながらリズムを取っていた。
私は両肘を脚立代わりに机に立たせてカメラを構えていた。
しばらくして白石と私の眉間には皺が寄って、白石が「アカンやん」とぼそり呟く。
二人の音はそれぞれに主張し合ってすぐにバラバラになった。忍足と財前は面白くないという顔をしながら互いを睨んだ。こらこら。

また4人が集まるまで日が開く。私は色んな景色をカメラに収めた。だけど何故か物足りない。何か足りない、何故か寂しい。やっぱり4人で居る時、3人をモデルにするのが一番楽しい。一番好き。
心の中がまたざわついた。新聞部の会議で白石と顔を合わせた。彼は会議中ずっとそわそわしているような様子で手に持ったシャーペンを動かしていた。その動きを観察すると、空中に文字を書いているようにも見えた。彼の目は今、どこに向いているのだろうか。


久々に4人集まった音楽室で、3人はそれぞれのことを話す。私も自分にあった出来事や考えを述べる。世間話に華を咲かせた。やっぱり4人揃うと楽しいし、落ち着く。心のざわざわは消えてくれない。

白石ふんふんと鼻歌を口ずさんだ。私はそんな白石に合わせて机をとんとんと叩いてリズムを取る。
財前と忍足は、楽譜が読めるようになったそうだ。何曲か弾けるようになったと財前が楽しそうに話してくれた。こうして会えない日も二人はそれぞれ自分の音楽を練習していたということか。
それにしても今までよく楽譜を読めずに音だけで演奏していたものだ。それってどうなの、耳がいいとかそういうことなの。ドラムやギターはやっぱり普通の(ピアノとかの)楽譜とは違うのだろうか。もっと複雑だったような気がしないでもない。

「俺?音楽の授業でやったから楽譜くらい読めるで」

そこは聞いてない。