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枷なんて最初からなかった 白石たちは時折小さなライブハウスで演奏をするようになった。音楽室で4人で楽しんでたのが遠い昔のように今はたくさんの人の前で彼らが彼らの音を奏でてるのがとても嬉しくて輝いててでもほんのちょっぴり寂しくて…。でもとても幸せで。 彼らの音はいつも優しく私の心の中に入ってきて、虜にさせる。それはきっと彼らの音を聞いている他の人も同じだと思った。そんな魅力があると思った。それが彼らの強さだとも思う。 たくさんの人の前で彼らは歌う。私はそれを今でも一番いいところでカメラに収める。 最初は4人で音楽室に集まって、箒とかバチとか音楽室にあるもので演奏の真似事をしていたのに、いつの間にかそれが楽器に変わって歌を練習して、今じゃこうして4人だけだった空間にたくさんの人がいる。それが不思議で当たり前のようで。 まだ何人かだけど、ファンもついてきてて、3人が遠くに行ってしまったような寂しさを感じる時があるけど3人を一番近くで見れる私がいると思い出して照れくさいけどやっぱり幸せだなあなんて噛み締めるのだ。 「お疲れさまっすー!」 「おう、ありがとな」 ステージを降りた3人にかけよってハイタッチを決める。差し出した飲み物を3人は笑顔で受け取って今日の感想をそれぞれ述べる。それと同時に今日はあれがダメだったこうしたらよかったとか反省点も述べていく。私はそれを聞きながら自分の意見も述べる。そして4人で今日のライブの話で白熱する。 これ見て、と持ってきた一冊のアルバムを白石たちに渡す。36ページある小さなアルバムには1ページの空白もなく写真が入れられている。 これは彼らと私の記録。彼らと私の記憶。始まりとこれからの記録。始まりと今までの記憶。 音楽室に集まって遊んでいたあの頃、みんなそれぞれ本格的に練習し始めた頃、おおきなきっかけになった文化祭、今こうしてライブをするようになったことがまとめられた1冊のアルバムを、白石や財前や忍足は懐かしそうに愛しそうに1ページ1ページ見て行く。 「よお撮れてるやん」 「私が撮ってるんだもん、当然」 「せやなあ、俺らのことこんな風に収められる奴自分以外におらんわな」 皆が変わっていく中、私だけが同じことをしているような立ち止まっているような、置いていかれてるような不安をたまに感じる時もあるけど、同じことをしているといったって仕方ない。だって私は、3人を撮るのがとにかく好きなんだから。 それに私だって変わってるし進んでる。ゆっくり一歩を踏み出してたちょっと前と比べて今はきっと早足になってる。だけどずっと早歩きはつらいからたまには休んだり進む速度を落としたりだってする。 3人はずっと早歩きで進んでいるのかな、と考えるとやっぱり違うよなと思うのだ。彼らだって私と同じような速度でたまに休んだりしている。 「なあ、そろそろ俺らのバンド名決めへん?」 「いつまでもノーネームって名乗ってるのもあれやしな」 「あれ、ノーネームってバンド名じゃなかったの」 「何言うてんねん。無名なんてバンド名嫌やもっと意味のあるものにしたい」 前から思ってたんやけどなぁ、と白石が顎に手を持っていきながら言う。忍足も白石と同じように手を顎に宛がって、やっぱあれやなあと口にした。財前もそんな2人と同じように顎に手を置きながらあれしかないやろと呟く。あれあれってなんなの。 「せやなあ」 「それしかないわ」 「やっぱそれしかないっすよね」 「何だ、もう決めてあるの」 もったいぶらずに教えてよ。ていうか私の居ないところで3人で決めたのね。ちょっとロンリー気分になってしまった。 ぶうと口を尖らせた私を見て笑った3人は口を揃えて言うのだ 「自分が決めてや」 「はい?なんて…?」 「これ先輩への課題っスわ」 「よろしくやで」 「いや、え、マジですか」 こりゃ責任重大だわと脱力しながら言うと、3人は当然というように笑って私にプレッシャーをかけてきた。もう、こいつらなんなんだよ。大好きだ。 私達の記録はこれからも続いていくのだろう。色褪せない記憶と共に。 |