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ミス・ルールブレイカー 「あ、あああ、アホか!」 「送るのはタダだよ、送料別として!」 「そんな鼻水垂らしながら言われてもなぁ」 「先輩、間抜けっすわ」 皺だらけの紙を机に広げ、記入項目を埋めている私の周りで呆れ返った態度でいる3人を一瞥する。私は、この感動をもっともっと色んな人に、レンズ越しに見た景色じゃなくて、写真から伝わる気持ちでもない、あの一体感を直接届けたいとそれだけを考えて今こうして羽ばたくチャンスを、駆け出すきっかけを作っているのに。何夢見てんねん、と何でそんな風に無理と一言で片付けてしまえるんだろう。夢は見るものなんだよと言ってやりたくなった。というか言ってやった。夢を見ずして人は何かを成し遂げることは出来ないのよ。やるからにはとことんやってやった方がいいの。そう豪語する私に、3人は小さく溜息をもらした。でもその目は私には期待の色を含んでいるように見えるのだ。 3人がやりたいと思ってることを私が助けないで、応援しないでどうするの。3人がやりたいのに素直になれない時は私が一番に素直になってシャイでひねくれた3人を引っ張ってやらなくちゃいけないと思うのだ。だって、彼らを一番に応援できるのはきっと私だし、一番に応援したいのも一番傍に居たいのもこの私なのだから。 「やれることはやろう、結果がどうでもやってみたっていいじゃない。罰なんてあたらないよ、誰が悪いなんて言うの?やりたいことが良いか悪いかなんてそんなの他人の決めることじゃないよ」 住所は、私のでいいかな。マネージャーみたいなポジションゲットだね。ついでに専属カメラマンの地位も頂いてやろう。 「やっちゃいけないことはやっちゃだめだけどさ、好きなことはやってやればいいんだよ」 万引きとか人殺しとか、そんな次元の話じゃなくてだけどね。そう言って区切って、大体記入の終わった紙を3人の真ん中に置く。あとは参加者の名前を書くだけ。この欄は本人の手で書かせてやりたかったからわざと記入せずに最後に回したのだ。 「やりたいのかやりたくないか、考えて」 そう余裕を含む顔をして頬杖をつく。彼らはやはり呆れたというような顔をしていたけど、ちゃっかり自分の名前を何の迷いもないというようにスラスラと空白に埋め込んだ。 私は一層笑みを深くしたのだった。 後日、私の家のポストに“一次選考通過通知”と書かれた紙が投函されていた。 その日は学校が休みで3人とは会う予定もないのに、嬉しくて大はしゃぎで3人に連絡を入れて呼び出した。 忍足は信じられないという風に顔面を崩壊させていた。白石も驚いていたし喜んでもいたけど忍足のように顔面を崩壊させてはいなかった。財前に至っては当然というように白石十八番のドヤ顔をしていた。 「やれることはやってみるもんでしょう」 「俺たぶんお前のこと3回目くらいに尊敬したわ」 「あれ3回だけなの?」 「安心してください、俺は謙也さんを尊敬したの1回くらいっすから」 「なんやと!」 「まあまあ」 白石がなだめる。私は一次選考通過と書かれた紙を空にかざしてその辺をくるくる回った。足取りがとても軽い。 白石がメロディを生む。私の心の波と同調しているように共感するように共鳴するようにその声も言葉たちもすんなりと私の中へ入り込んで心の中をその音で染めていった。 追い風が吹いてるような気がした。 |