1周年記念:中編:白石忍足財前 | ナノ
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暇を持て余した先輩には気をつけろ

3人がステージから降りてカーテンの向こう側に消えるのと、私が人混みを掻き分けて体育館の裏へ回ったのはほとんど同時だった。
両手が震える。足元から力が抜けてってついに立てなくなってその場に座り込む。息がうまくできない。興奮しているのか、感動しているのか、満足感、恍惚感、何かよく分からない感情の渦が胸の中を支配している。それは心臓や肺まで支配して、呼吸さえ浅くさせる。この震えが伝えてるのはなんていう気持ちなのだろう。

顔をあげる。曇り空が広がっている。つうと頬を涙の雫が伝った。肺に送り込める限界の酸素を送り込む。そうしたら気持ちが爆発するようにぽろぽろと波が次から次へと出て来て嗚咽が漏れた。

体育館の裏口から出てきた3人が私を見つけ慌てて駆け寄ってくる。そんなのお構いなしにわんわん泣く私に3人は心配そうな顔をしながらなだめようと必死になっていた。

「お、おま、大丈夫か?!」
「どないしてんそない泣いて…」
「カメラでも落としたんすか?」

3人がしゃがみ込んで心配してくれる。財前が次から次に出てくる涙をリストバンドで拭いてくれる。拭ってくれるならリストバンドじゃないものがよかったと密かに思った。白石が頭を何度も優しく撫でてくれる。忍足がアホみたいに慌ててるのが少しだけ面白かった。ごめん。
どっか痛いわけじゃない。カメラも落としてない。大事に両手の中にちゃんと持ってる。私が泣いてる理由に答えを出すとしたら、この3人が私は大好きなんだ、になるだろう。説明はつけられないし理由になっているのか問われたらきっとみんな否定するかもしれないけど。私は今どうしようもないほど目の前で心配そうに眉を八の字にしながら慌ててるこの3人が大好きだと感じたのだ。かけがえのない人たちだと思ったのだ。大好き、好き、恋愛感情ではない好きこれは友情と呼んでいいのだろうか。好きだ、好き、大好き、――――

「…ず、っ…」
「なんて?」
「…お水、飲みたい」
「……………」
「……どーぞ」

財前の手をなるべく優しく払って、白石の手もどけて、ポケットからハンカチを取り出して思い切りずびびっと鼻水をかんでやった。ああ、すっきりした。3人は私の行動に目を点にさせていたけど、それをお構いなしに顔を上げて水がほしいと訴えれば3人は同時に呆れ顔になった。やっぱり皆は眉を下げておどおどしてるよる、そうやって顔の力が抜けてる方が私は好きだと思った。イケメン度は下がるけどね。

白石が咳払いをした後、飲みかけのペットボトルをくれたので遠慮なしにごくごくと喉を鳴らしてボトルを空にしてやったら3人はさらに顔を崩した。

「落ち着いた、ありがとう」
「…まさか全部飲まれるとは思っとらんかったわ」
「ごめん」
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」

先に立ち上がった白石と忍足が手を差し伸べてくれたのでその手を掴んで立ち上がる。

「皆が好きだと思ったら、ステージを見てた時よりもでっかい感動が押し寄せてきました、はい、そしたら泣けてしまいました3人が私は大好きですはい」
「俺らも今さっきより感動してんで多分」
「謙也さんの顔真っ赤や」
「ううううっすさいわ!噛んだわ!おま、だってそんなストレートに告白されたら照れん方がどうかしとるやろ!うん!せやその通り、俺ノープロブレム!」
「プロブレムだらけやっちゅーねん」
「お前どんだけ俺らのこと好きやねん」
「俺らも好きやっちゅー話や!」
「先輩かわいいっすね、ズボラっすけど」


「あんたらいいよ、かっこいーよ、私は惚れたね」

うんうん、と頷いて私は自分の鼻水で汚したハンカチを適当に丸めてポケットにつっこんだ。ハンカチを離してポケットから手を引き抜く。手の中には少し湿ってしまってふにゃりとなった小さく折り曲げられた紙が握られている。それを白石に渡す。

「レコード会社のオーディション…?」


今度こそ3人の顔が固まった。