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苗字(藤城)君の家でクリスマス会をすることになった。名前(菊崎)だけじゃダメだと苗字(藤城)君は言うけれど、絶対の信用を置いている彼に対してそんなことを言われるとは微塵にも思っていなかった。やっぱダメなのか。テスト明けの教室での会話だった。いつの間にか後ろに王子が立っていた。いつからいたんだ。 王子の顔は般若のような顔つきになっていた。いつもの爽やか(うさんくさい)笑顔がそこにない。 「女の子が男の子のお家で二人っきり?!だめだめだめだめ!喜劇(蓮)なんて性欲の塊なんだからね男なんだよ?だめだめだめ二人なんてだーめ!」 「うぜぇよ自分の教室戻れよ知り合いだと思われたくねーよ」 「王子の本性ばれちゃうよ?」 「ていうか喜劇(蓮)も何?クリスマス一緒しよう?おまっ彼氏面してんじゃねーぞおい」 「別にそういうわけじゃないけど」 「いや、誘ったのは私の方…」 「名前(菊崎)さん積極的だねぇ」 「そのいやらしい顔やめてください」 「俺がクリスマス一人だって言ったから名前(菊崎)が一緒にどうって誘ってくれたんだよ」 「ああ今年も親返ってこないの?」 「うんこない」 「うんこ、ない?便秘かい?」 「名前(菊崎)は家族とかと過ごさないでいいの?」 「大丈夫だよ、クリスマスなのに一人はだめだよ!」 「ダメなんだ」 「うん、苗字(藤城)君の家でも平気だよ」 「おおぅい!スルーかスルーですかスルーなんですかっ!」 「いや平気じゃないよ」 「そうそうスルー平気ちがう!俺にダイレクトアタック!」 「やっぱ男と一泊なんて名前(菊崎)の親御さんにだめだろ」 「苗字(藤城)君てそういうの気にする人だったのね」 「おい、俺をそこのヤリ男と一緒にしないでくれるか」 「あっごめん」 「ちょっとぉーわざわざ会いにきた俺にこんな仕打ちしていいの?いいわけ?俺生徒会長だよ?」 「ていうわけでバカ王子誘ってもいい?男ばっかになっちゃうんだけど、むしろ余計危険になるかも」 「どういう意味だよ」 「大丈夫だよ!王子疲れるけどいるとなんか楽しいから」 「名前(菊崎)さんのターン!心が痛いですボク!」 「あ、でも王子彼女さんと一緒するよね」 「あーそうだよね、じゃあ他の手考え…」 「ちょっと待って!」 「何」 「どうしてクリスマスまで彼女と過ごさないといけないの?」 「いやいまどきのカップルの常識だよ」 「彼女がいるから俺をクリスマス誘ってくれないくらいなら別れるよ」 「おいおいおい!彼女さんなんだと思ってんだ!」 「最低だよお前最低だよ死んでこいよ最低だよ」 「何回最低って言うの」 「じゃ、じゃあ彼女さんがいいよって言ったらおいでよ!連れてこられたら私人見知りだから打ち解けられるか分からないけどね」 「俺も名前(菊崎)以上に人見知りだから、彼女ボロ雑巾にしちゃうよ」 「何したらボロ雑巾にできるの!」 「解った確認してくる」 「あいつには気を付けてね」 「大丈夫だよきっと」 「ま、俺が名前(菊崎)のことは守るから」 「えっ…!」 「そこは安心してて」 「…うん(え、やっぱ苗字(藤城)君って笑うと天使だろ…!ていうかドキドキするだろ!サラッと本物の王子みたいなことを…!)」 そんなこんなでクリスマスは苗字(藤城)君の家で3人で過ごしたのだけど、今度は王子が初詣一緒に行こうと提案してきた。しかも年越し初日の出と一緒に見たいと言い出したのだ。彼女と行ってこい彼女と。 苗字(藤城)くんも同じことを言っていた。 「彼女とホテルから見たらお前の願望全部叶うんじゃないの」 「言い方があれだけどその通りじゃん」 「バカですか君たちは!俺は名前(菊崎)さんと喜劇(蓮)と過ごしたいんです!」 「彼女さんかわいそうだよ、クリスマスも私たちといたのに」 「大丈夫、クリスマス過ぎたあたりから俺フリーだから」 「えっ!」 「あんたらと居たいから女の子たちの夢壊してまで独り身でいたんだよ、解ってよ」 「わ、解ってって…」 女の子の願望は自分が出来る範囲で全力で叶える王子が、その女の子たちを断ってまで私たちと一緒にいたいって。感動するんだけど。苗字(藤城)君しかそういう人っていないと思ってたけどいつの間にか王子も私にとって大切な人になってたのかもしれない。 「今度は俺の家で一緒しません?」 「苗字(藤城)君、私参加したいよ…!」 「名前(菊崎)さん涙目なんですけど」 「だ、だだだってだって王子が」 「解った。その代わりお前の家のシェフの本気見せてもらうから、俺の胃袋満足させなかったら承知しないよ」 「喜劇(蓮)は豚骨ラーメン出しとけば満足するでしょ余裕だよ」 「埋めるぞお前」 そんなこんなで31日。苗字(藤城)君は落ち着いていたけど(何度か来ているらしい)、私と言えば目の前の大豪邸に大興奮だった。テレビでしかこんなおっきいお家見たことないよ!これ友達に自慢できるレベルだよね苗字(藤城)君たち以外に友達いないけど! 王子は私の様子を見て爆笑していた。 「そんなはしゃぐ人見るの初めて!」 「えっ?」 「中見たらもっと元気になるかもね」 「王子と付き合ってた子たちは驚かなかったの?」 「俺女の子家に招いたの初めてだよ」 「そ、うなんだ…意外」 王子って意外とガード固いのかもしれない。どうなのかしら。 苗字(藤城)君の言う通り中に通されてからの私ははしゃぎっぱなしだった。廊下が長いし幅が広いし天井は高いしお風呂なんてまるでプールのようだった。お風呂がプールみたいと言えば、プールならそこの庭と地下に25mのがあるよと「あ、トイレならそこの突き当りね」と言わんばかりにさも普通に口にした王子に私のめんたまは飛び出た。庭と地下って、地下って!ていうか25mって!プール2個もいらないだろ!25mとかいらないだろ!王子やっぱマジもんの王子だったよ!この家怖い!この人すごい! 王子の寝室に通される。私や苗字(藤城)君の家の寝室とは全然ちがった部屋がそこに広がっていた。クローゼット多いねって言うと「そこはトイレだよ、そっちはシャワーね」と言われた。もう何を言われても驚かないとプールのことを聞かされてからずっと決めていたけど驚いた。そして本物のクローゼットは私の寝室より広いんじゃないかというくらいあった。何もかもがでかい…。ベッドとかホテルのダブルベッドより大きいかもしれない。寝相が悪くても余裕で受け止めてもらえるくらいだ。 「じゃ、これからどうしよっか。ご飯まで時間あるし」 「この部屋に何があるんだよ」 「いや逆にないモノがあるんですか?」 「うーんピクミンする?」 「いや何で?!ここでピクミン!?」 「最近はまっててさー」 「庶民的すぎっていうか王子がピクミン!」 「じゃーん」 「何これ!ここは漫画喫茶かなんかですか?」 我が家の40型をはるかに凌いだ70型の薄型テレビの下から出てきたのはWiiにキューブにPS3にXBOX…お前はどこのゲーマーか!というくらいゲームの数が多かった。さすがにファミコンはなかった。 「好きなの選んでいいよ」 「あ、俺マリカーしたい」 「苗字(藤城)君がマリオ!」 「いいよ」 さすが70型…!マリオカートを3人でやっても全然画面きゅうくつじゃないよ!これはすごい。 マリカー、ピクミン、戦国無双と遊んでいたら使用人の人が料理を運んできた。お昼ごろに来たのにいつのまにか夜になっていた。 「あのでっかいテーブルのとこ行かなくてよかったの」 「うん名前(菊崎)さんにもリラックスしてほしいしね」 王子の家の料理はスペシャルグレートデリシャスでした。パーフェクト…! 苗字(藤城)君が初詣は明日でもいいと言うのに対して王子は今から行きたいと言い出した。今日行ったら絶対人ごみきついだろうなぁ。王子が最後まで折れなくて珍しく苗字(藤城)君が諦めて、今から出かけることになった。 「歩きになるけどいいかな?」 「うん」 「あ、上着もっとあったかいやつかして」 「クローゼットから適当に取ってこいよ」 「んー」 歩きで一番近くの神社へ行って、出店を回って賽銭の列に並ぶ。人の波が激しい。王子がはぐれないようにって私の右手を取って自分のポケットにそのままつっこんだ。え、え、ええええ!何自然にこの人してくれちゃってんの!彼氏かお前は!もうもうもう、何そのスマートな動きなれた動きは! そう言って苗字(藤城)君は私の左手を自分のポッケに入れた。えええええええ苗字(藤城)君まで?! 何この図!彼氏二人いるみたいっていうか…やっぱりこの二人って顔整ってるしモデル体系ってやつだし、そう考えたら顔が熱くなってきたし!こ、コート脱ぎたくなってきた熱いよもう体中!地球温暖化なう!! 両手に華状態の私はきっとこの上なく幸せ者だ。除夜の鐘が鳴る。もうすぐ新しい年になる。一つ日本は年をとります。だけど他に何が変わるというのだろうか。きっと私は今まで通りだし、苗字(藤城)君が隣にいて王子がいて、私の周りはきっと変わらない。変わらないでほしい。除夜の鐘を聞いているとだんだん終わらないでと思う私がいて、それはきっとこの関係に終わりが来なければいいのにと思うのと一緒。 長かった列を進み賽銭箱の前まで来る。苗字(藤城)君は10円玉四枚と5円玉を投げる。王子は財布から札を取り出した、えお札?「にせんきゅうひゃくごじゅういち円…二千と九百…五十、一っと…よっしゃビンゴ!」 ぽかんとする私とすでにお辞儀をしている苗字(藤城)君(うわレアショット)をよそに王子は2951円という私からしたらすごい額を賽銭箱に入れていた。そして王子は「ふくよこいふくよこい」と呪文のように呟きながら鈴を鳴らした。この人すごいわ。 私は語呂合わせで定番の5円玉をポケットから出して賽銭箱に投げ入れた。気持ちが大事。うん。 鐘を鳴らす。カランカランの音が胸の奥に沈んでいくような気がした。 「よし、行くか」 「うん」 「あ、ちょっと待って」 私たちを制した王子は賽銭箱の上に自分の財布を指し出してそのままさかさまにしゆすった。目を見開く私を無視して小銭たちはじゃらじゃらと賽銭箱に吸い込まれていく。お札がはらはらと賽銭箱に飲まれていった。 財布がすっからかんになったところで王子は満足気に笑って行こうかと促した。 あたりはまだ暗い。朝日が昇るまであとどれくらい時間がかかるのだろう。 何時間だって待てる気がした。このままもしも朝日が昇ってこなくてもこの二人がいてくれるならどんなに永い時間暗闇に包まれたって平気だと思えた。それくらい私はこの二人、3人で共有する時間が大切だと、愛おしいと思ったのだ。 「じゃっ、缶ケリでもしよっか!」 一周年企画フリリク 篠原遊さん:お泊りの部分を出せずにすみませんでした…!お泊りした後のような設定ですみません><リクエストありがとうございます! |