×
どうしてだろうね、目の前で作業している生徒会長様に問いかけるとそんなこと言われても…と彼は困ったような声をあげた。表情が全然困ってませんけど。 優等生の鏡のような風貌のマイダーリン(そんなキャラでもないけど)石田雨竜は机の上で頬杖をついて窓の外を見ながら長い息を吐き出した。きっと書類と戦うのに疲れたんだな。大変だとは思っても手伝う気は起きなかった。いや手伝いたいのだけども以前、彼の負担を減らそうとお手伝いのつもりでコーヒーを淹れたのだけどそれを書類の上にこぼしたことがきっかけで机の傍に行く事を禁じられてしまったのだ。なんだか私も溜息を吐きたくなってきた。でも溜息を吐いたら頑張ってる雨竜に悪い気がしてぐっとこらえた。 コーヒーでも淹れてあげようと席を立つ。机の傍には近寄れないけど私の目の前にあるテーブルでなら自由行動ができるのだ。 「僕が淹れるよ」 いつの間に隣に来ていたのか、雨竜が私の肩を叩いて止めた。 「少し休めばいいのに」 「息抜きだよ」 ぽんぽんと肩を数回叩かれて座れと促されてしまったのでおとなしく雨竜の言う通りにすることにした。ま、雨竜に甘やかされるの好きだしいいかな、なんて単純思考。 砂糖はどれくらい? 雨竜の倍で。そんなやり取りをしてから、やっぱりどうしてかなあと冒頭と同じような台詞を自然と口にしていた。 彼の趣味と言えば料理に勉強、むしろ家事全般。特技と言えば料理と手芸、むしろ家事全般。 彼の所属する部活は手芸部しかも期待のエース。しかも生徒会長で学年首位の優等生。そんでもって面倒見のよさなら彼に勝る人を私は知らない。それを踏まえても私には理解できないのだ。 「まだ気にしてるのかい?」 「んー、ちょっとねぇ」 「無理して理解しようとしなくていいじゃないか」 そんなことをさも何でもなさそうに言う雨竜をじとりと睨み付けながら頬を膨らませる。 「雨竜のことは無理しても理解したいんです」 彼は若干顔を赤く染めながら、そうかいじゃあ僕も君と同じことを努力するよ。と余裕があるのかないのか返してきたので私のほっぺはぷしゅうと凹んだ。彼の一言を不満に思ったり満足したり、雨竜がいたら私も忙しい。雨竜はテーブルの上に2つのコーヒーカップとカステラが3つ乗ったお皿を置いて向かいのソファに座った。 今日、クラスメイトの女の子たちが私の耳に聞こえるように言ったのかは定かではないけども雨竜の話題で盛り上がっていた。男らしくないとか、お母さんみたいとかむしろ奥さんだとか? いやいやいやどの辺?と私は彼女たちに聞いてみたかった。ちょっとあの子たちと話してくる、そう友人に告げて席を立ったところで談笑していた友人たちが私を引きとめた。あの子らの言うことも一理あるんだよ。あんた勝ち目ないですから…はい? いやいやいや意味が分かりませんから。彼充分男らしいですから、いいパパになりますから、いい旦那様ですから。むしろ奥さんは私なんですけど。そんな私の主張もむなしく私の友人までも生徒会長って手先器用だよねー、女子力高いよねえ、などと騒ぎ始めたので私は結局何も言わずに、何の弁解もできずにその場をやり過ごした。なのだけど、やっぱり納得がいかない。理解できない。挙句の果てには石田ゲイ説まで持ち出すのだから腹が立つ。そこは気の済むまで否定したわけだけど。 「私はお母さんが好きなわけじゃないし、雨竜がもし料理が下手でも雨竜が好きなのにね」 「(何でそういうことサラッと言えるんだ…)」 「優しいだけなのにね、面倒見いいだけなのにね、ただ器用ってだけなのにね」 「彼女たちは別に僕を批判したわけでも君に何をしたかったわけでもないと思うよ」 「いやでも私は納得できない。雨竜はかっこいいって言わせたい」 またぷくりと頬を膨らます。拗ねた子供みたいだと言われた。お母さんかって…違う、雨竜はお母さんじゃない。そんななだめないでよ嬉しいのになんだか寂しくなってきた。エプロンが似合う系男子からお母さん系男子になっちゃうよそんなの嫌だ。他の人は良くても私は嫌だ。 雨竜はコーヒーをすすった。口元からコーヒーカップを離した彼は空いている方の手で私に向かっておいでおいでと手を振った。雨竜に可愛がられてるみたいで嬉しくなって急いで隣に座る。彼は満足そうにうんと呟いた。ので私もうん、と嬉しい気持ちを精一杯込めた声で口にした。 カップをテーブルの上に置いた頃には口元が優しい三日月の形に変わっていた。でも少しだけ意地悪な目をしていて身体がギュと締められたように固まった。 「なに?」 「そんなに不満なら考えを変えたらどうかな」 「何の?雨竜は私より女子力高いって?無理だからねそんなの」 「そうじゃなくて、僕と同じ考え方をしたらどうだいってことだよ」 「まあ、話くらいは聞くよ」 無言でほっぺをつままれた。ごめんなさい。 「他人にどう思われたって構わないだろ。正直、彼女たちがそういう風に僕を見てくれて嬉しいと思ってる」 パッと頬をつまんでいた指が離される。途端に私の顔は不機嫌に歪んだ。納得いかないよ雨竜の言葉でも納得できないよ。 「かっこいい、なんて思ってくれるのは君だけで充分」 夕日に照らされた時みたいに顔を赤くした雨竜はぎゅ、と私の鼻先をつまんだ。なんでですか。 「なんか特別扱いされてるみたいで嬉しいからそういうことにしておいてあげてもいいかな」 「どんだけ上から目線になれば気が済むんだ君は」 「えへ、素直でしょ」 「素直なとこ可愛い」 雨竜はやっぱりかっこいいと思うのですが、やっぱりみなさん同意しないでください。私だけのイケメン彼氏様でいてほしいです、まる 「あと単純なとこも」 「…………意地悪」 クスリと笑った雨竜の顔が近づいてきてキスされると直感的に解ったから顔を背けたら身体ごと抱き締められてそれから無理やりキスされたのでお返しにこっちからも抱きついてやった。やっぱり私って単純だなあとぼんやり思ったけど雨竜への愛だなと自己完結させた。確かにこんな雨竜を知ってるのは私だけで充分かもしれない。 将来の夢は、 旦那さまを幸せにできるお嫁さん 一周年企画フリリク 菜月さん/みみ |