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なんなの、あれ。頬杖をつきながら廊下を睨む。椅子を後ろへ向けて私の机の上でノートを広げて仁王のノートの答えを写していた丸井が同じく廊下へと視線を投げた。

「ああ、幸村くん」
「いやそれは解るけどさ」
「女の子に囲まれる幸村くん」
「そうなんだよ、解ってるよ」

じゃあなんだよぃと彼は再びノートに視線を落として訊いてきた。いや解れよ、幸村くんが女子に囲まれてるんだよ。そしてその女の子たちに笑いかけてるんだよ。解ってよ。軽くあれは浮気だ。そう言えば丸井はうげっと声を漏らした。イラッときたので俯いていた丸井の頭を叩いてやった。

「幸村くん、笑ってる…」

小さく呟いた声はどうやら丸井にも届いていたようで、そうだなの一言が返ってきた。もうこいつ何も解ってない。こんな簡単な数式も理解できない丸井だから私の思ってることなんて理解できなくて当然かも。でも何かむかついたからもう一回頭を叩いてやった。

幸村くんはいつも余裕でそこがちょっと羨ましくもあり妬ましい。私と彼が喋ってる間でも構わずに話しかけにくる女子に対して愛想よく対応する幸村くんに私はいつも振り回されている気がしてならない。だって今私と喋ってたのに、ってどこかおいてけぼりにされた気分になって。
本当は幸村くんは私なんて好きじゃなくて、ただ私が幸村くんに依存してるから離れないでいてくれてるだけなのかも。こんなに好きだって思ってるの幸村くんに伝わってるのかな。
伝えられてるか不安になる。幸村くんに嫌われてないか不安になる。幸村くんに好かれてるのか、必要とされてるのか不安になる。こんなに私は不安だらけなのに、幸村くんはいつも余裕だね。
はあ、と大きな溜息を吐いてしまう。

幸村くんが目の前にいるっていうのに楽しめないのは、他の子の影がちらつくせいだろうか。どうしたのと尋ねられても素直に言えるわけもなく、別にどうもしないと可愛げのない返事しか出来なかった。それが彼には不服だったようでふーんと若干不機嫌な声が返ってきた。
それから彼は窓の外へ視線を投げしばらくして笑顔を作り窓の向こうへ手を振った。何気なく窓の向こうに目をやれば幸村くんに向けて大きく手を振って騒いでいる女子の塊。ああ、もうそういうとこが…

「ひっどい顔…」
「うるさいな」
「妬いた?」

さっきまで不機嫌になってたんじゃなかったの?今はとてもご機嫌そうで、幸村くんはすごく楽しそうに笑っていた。背筋がピンと伸びる。

「……別に」
「ふぅん、あっそ」
「幸村くんは」
「なに?」
「色んな女の子を相手にしちゃって忙しいね」

言って、思わず口元を手で覆った。うわ、幸村くん相手にすごい嫌味言っちゃった。嫌な汗が背中を伝っていった。幸村くんは一層笑みを濃くしたけど、絶対皮の下にはマスクメロンのような筋がたくさん出来ているんだろう。

「俺が見てるのは君だけだよ」
「じゃあ、私といるときは」

他の女の子に笑いかけるのやめてよ、そう小さく言えば幸村くんは一瞬動きを止めた。
そして可笑しそうに笑い出した。クエスチョンマークが頭の上にいくつか飛ぶ。だけど、突然笑われていい気はしない。

「あー、もうダメ。俺って意地悪だね」
「い、意地悪だよ!幸村くんばっかり余裕でずる…っ」
「ごめんね、不安にさせた?」

幸村くんの手がゆっくり伸びてきて、顔の横に流れる髪の毛を耳にかけた。そして頭を髪の流れに沿わせるように撫でた。

「幸村くんが、安心させてくれるから」

大丈夫かも…そう口にすれば幸村くんは撫でる手を引っ込めて机に突っ伏してしまった。

「ねえ、」
「な、なにっ」
「どうしてそんな可愛いの」
「か…っ」
「余裕なんかじゃないよ、俺」

また、幸村くんの手が伸びてくる。撫でられるのかと思ったのに、頭に回された手は強引に私を幸村くんの方へ持っていった。そのまま頬を撫でるように手が置かれる。さりげなく中指で右耳を塞いだ幸村くんは、私の左耳に唇が触れそうな程に近づけて

「好き」

左耳から、幸村くんから吐き出された二文字が私の奥深くに沈んでいく。手足が痺れるような感覚に酔っていると、幸村くんはゆっくりと唇を左耳から外して微笑んだ。

「君に好かれてるから、調子に乗ってるんだよ」

困ったね。そう言って笑う彼に言ってやりたくなった。それを余裕って呼ぶんだよ、と。


ロマンスで振り回して



空想アリア/何も解決してない件
りっちゃんへ!大変遅くなり申し訳ありません><
お誕生日おめでとうございます!(何ヶ月前だよ…)