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俺には解せない。何故、他人は土方スペシャルの良さについて理解し得ないのか。人生最大の疑問である。

自惚れ云々は置いておいて、俺の容姿のせいなのかただ単に仕事だからという理由だけなのかは知らないが、上部の接待に連れられる店では鬱陶しいと思うほどに周りに女がいる。
俺としては上層部の連中の相手だけしてもらいたいものだと思うのだが、そもそも上層部の相手は接待ということなのだから元来俺からいくべきなのだ。くそ面倒くさいから俺は隅でおとなしくしてるんだがな。おとなしくしてる俺を目立たせるような真似をしてくる女共に少々苛立ちが沸くのだけど、やはり俺にも問題があるので深くは追求しないし俺の周りの連中に言うわけにはいかない。キャッキャキャッキャ隣、周りで騒がれてちゃ落ち着いて飯も食えねえな、そう思ってる割にがっつり土方スペシャル食ってんだけど。そしてその姿を目にすると女はこぞって俺から離れていく。さっきまでしつこく話しかけてきたくせに、手の平返したように俺の傍を離れ気付けば新しいターゲットを見つけキャッキャ俺の時と同じように騒いでいる。調子いいなと呆れる反面、誰もいなくなった周りに寂しさを覚えたり。俺にとってそれが救いなのか悲しいのか。いやそれよりも肘肩スペシャルが理解されないことが何より悲しい。

またとっつぁんの気まぐれで、上の連中を連れ(その護衛で俺達が駆り出されるのだが)いつもの店(まあキャバクラだけど)に来たわけだ。接待という仕事の一つだと仕方ないと自分に聞かせ割り切るのは簡単だが、やはり周りに集まる女共はどうも苦手だ。耳元で騒がれるより俺は静かに酒を呑みたい派なんだがな…。まあ一応こっちも護衛兼接待という仕事だから一人静かになんていかないのだけど。
とりあえずここでも土方スペシャルを登場させ(マヨをかけたらどんな丼物だて土方スペシャルに早変わりだ)どんぶりを持ち上げ思い切りかき込む。途端に女共は顔を引きつらせながら離れていく。いつものように。その様をどんぶりの隙間から横目で眺め、それに気付かない振りをして最後の一口をかき込んだ。

ふう、一息つく。俺の目の前につい先ほどまでいた女はいなくなっていて、代わりに見えるようになったのはとっつぁんや他の上の連中が女に騒がれながら酒を注がれている光景だった。視界が開けたのかなんなのか…自分が隔離させた世界にいる気分になった。近くに見えているのにとても遠いような……大げさだな。

俺の周りは一気に静かになり、先ほどまで相手にはしていなかったが話し相手なんてたくさんいたのに今は話を聞いてくれる一人すらいなくなっていた。別にいいけど。
でもこうも誰もいないとやはり暇だ。別にいいけど。

何もすることがないのでとりあえず一服をと思いタバコを取り出し口にくわえると、隣からクスリと笑う声がした。
驚いた余りに、え、の声と一緒にタバコが口から離れてテーブルの上に転がった。
隣に誰かいたなんてまったく気付かなかった。否、いないと決め付けていた。
俺を見て笑ったそいつはまだ幼さを残した顔をしていた。

「マヨネーズ、口元ついたままですよ」

そう言われるやいなや彼女はどうぞとおしぼりを差し出してきた。それを受け取り口元を拭うと今度は、はい、とテーブルへ落としたタバコを差し出される。

「ありがとよ」

ぶっきらぼうな言い方をしてしまったと、言ってすぐに罪悪感が生まれた。が、すぐに いや何で罪悪感だよと一人ツッコミに入る。女はいいえと静かに応え、俺へ笑いかけながらマッチをすってタバコへ火を着けた。仕事柄慣れているのか、子供っぽい顔して仕草がえらく大人びていた。隣で笑ってる女から顔を背けたまま、動けない。どうしてだ。見たくないわけじゃない、じゃあなんだ見てたいのか。いいや違う。
息を吐き出すことを忘れて吸い続けていたらむせた。

「わ、ちょ、大丈夫ですか!」

今度こそ顔…見れねぇ

なんだ、これ




/wizzy