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ジローはいつも寝てる。ご飯中だって、好物以外は寝ながら食べているのとあまり変わらない。好物のおかずは生き生きしながら食べてるのに食べ終えた瞬間まぶたが瞳を半分覆うほど下りてくる。私が作ってきたお弁当くらいもっと美味しそうに食べてよね。そんなことを考えてウトウトしながら箸を口に運ぶジローに溜息が出た。なんだか切なくなるのでジローのためにお弁当を作っていく日はおかずのほとんどをジローの好物で埋めてやった。嬉しそうに食べてくれるのは嬉しい、すごく嬉しい。でもすごくげんきんな奴。
ジローはいつも眠そう。むしろいつも寝てる。何で私はこんな寝てばっかな奴が好きなんだろう。
移動だって誰かに運んでもらってもらうこともあるっていうのだからデートらしいデートにすら行けない。遊びに行って途中で寝られたら困る。身長もあまり言いたくないけど体重もそんなに変わらないジローを運ぶのは死ぬほど大変とは言わないけど、楽チンとも言えないし、街中で彼をおぶって家まで送り届けるのは正直恥ずかしい。どれだけジローを愛していたとしてもとても難しいのだ。
だからデートといえばジローか私の部屋でゴロゴロしてばっか。大抵ジローは途中で寝ちゃうんだけど。それで私といるのがそんなに退屈なのってしゅんってなるとジローは私の欲しい言葉をくれて甘やかしてくれる。こいつはとってもずるい天使だと思う。私といるのにそんなに寝てばっかいないでよ、と言えばジローはきっと起きててくれる。目の下に真っ黒なクマを作りながら。そんなつらそうな彼を見るのは私が苦しくなるので結局そんなわがままは言えない。一度経験して私は学びました。
でもね、でも、クラスの子たちが「この間彼氏とデートしてきたんだー」とか「プリクラ取ってきちゃった!」とか「みんなにもあげるねー」とかそんな浮ついた会話をしているのを聞く度に羨ましく思う。デートもまともに行けないし、プリクラだって私が笑顔でピースしてたって肝心のジローは後ろで寝息を立ててるに決まってる。
友達が自慢するように見せてくる友達とその彼氏のプリクラにはたまに抱き合ってるのとかあるし、“ずぅーっと一緒だよ”とか“ラブラブ”とか歯の浮くようなせりふとかハートのスタンプがたくさん散りばめられている。
友達はみんなラブラブそうでいいな。恋人同士って感じがするもん。私たちといったらなんだろう。
目の前で気持ちよさそうに芝生に転がって寝ているこいつは本当に私と付き合っている自覚があるんだろうか。私たちって恋人同士って呼んでもいいのかな、と不安になったりもするのである。

「もう、いい加減起きてよ!」

ばちん、気持ちよく寝ていたジローの額にビンタをくらわす。途端にジローの目はパチッと開いて「星が回ってるC」と騒ぎ出した。ちょっとモヤモヤすっきりしました。

「痛いC、何すんの名前」
「だって私だってジローとお話したい」
「ああ、うん、ごめんねー俺ばっか満足してた」
「私と話してるだけじゃ満足しないんだ」
「そういうわけじゃないんだけどなぁ…」

おめぇと居ると安心してすぐ寝ちゃうんだよねー、そう言いながら笑って私の髪を撫でるジローはやっぱり意地悪。私のツボをおさえてるんだから。

「まあ起きてくれたからいいや!」
「えへへありがとう」
「あのねあのねジロー君」
「なぁに名前ちゃん」
「私ね、街までデート行こうって言わないよ」
「え、うん?」
「だから一緒に写真撮ってよ!」

プリクラは諦めます。友達に見せたり配ったりも出来なくていい。だからジローと私が映った写真だけでも持っていたい。まあ携帯のカメラで撮るだけのだけど。後でアプリでプリクラっぽく編集したりしたらいいや。

「ん、いーよー」
「やった!なんか恋人っぽい!」
「だって俺ら恋人だしさ」
「なんか照れるね」

ジローが手を伸ばしてカメラを上げる。寄り添いながらカメラの方へ顔を向ける。二人で寄りそうのが嬉しくて自然と笑顔になる。いくよーと声をかけるとジローが「あ、ちょっと待って」と制止をかけた。

「なぁに?」
「名前前髪おかしくなってっCー」
「えっほんと?」
「直してあげるからこっち向いてー」
「はーい」
「はは、いい笑顔だねぇ」
「機嫌いいからかな?」

ジローの手が前髪をかき上げる。ジローに見られてるのがちょっと気恥ずかしくなって目を閉じた。瞬間、額に柔らかい感触。少し遠くからピロロロンのカメラの音。

「可愛いでしょ!」
「なっ!」
「デコちゅー」

ジローが満足気に笑う。ジローが目の前にかざしている携帯の画面にはジローが私の額にキスしているところが映っている。つま先から頭の天辺まで熱くなっていく感覚がする。

「けけけけして!はずかしいよ!」
「Eじゃん別に、これ待ち受けにしよーっと」
「やあああめえええええ」
「真っ赤な名前ちゃん激写っ!」
「やあああもうやああああああ!」
「あはは、可愛い!」
「やめてよなんでこんな時ばっか起きてるのー!」
「起こしたのは名前でしょー!」

ジローは何の恥ずかしげもなく笑っている。ああもうそういうとこが好きなんだってば!

「こういうの撮りたかったんでしょ」
「う、ち、違うよ一緒に撮れれば満足だったもん」
「そこは素直になってよー」

ドキドキが持続する。ジローは未だに楽しそうに笑っている。ジローが笑ってるから私まで笑ってしまう。なんか幸せ。不安とか不満とか吹き飛ばしちゃうジローの眩しい笑顔が好き。好き。




 




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