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意地悪…小さく呟いた言葉は静かな室内にゆっくりと溶け込んだ。携帯の待ちうけを見ながらため息をついてる現在0時34分。メールボックスには知り合いからのバースデーメッセージが何件か届いている。
友人からのお祝いの言葉はもちろん嬉しいのだが、何か足りない。物足りないのだ。一番聞きたい人からの言葉が、届いていないから。そりゃ、普段意地悪だし、優しい一面とかレアだし? こうなることが予想できなかったわけじゃないけども。マメな彼のことだから、私の誕生日くらい優しくしてくれるだろうという期待もあった。みんなからのメッセージを読み終えて再び待ち受け画面で開いたままの携帯を両手に握る。時計が1時になろうとしても、一向に白石からメールが来る気配はなかった。メールがもしかしたら止まっているのかもとそわそわしながら問い合わせてみる。新しいメッセージはありません、無情にも一言表示される。

これは今夜はもう来ないだろうと、ため息を一つ吐いて部屋の電気を消す。健康に拘る彼のことだもの、きっと0時前に寝てしまったんだ。早寝早起き大好き人間だものね、仕方ない仕方ない。朝に期待して目を閉じる。不安と期待が混ざりあって中々寝付けなかった。

翌朝、携帯のアラームによって起こされる。手探りで携帯を操作してアラームを止める。のそりと上半身を起こして携帯の画面を見つめる。そこにはメールが1件入っていて、まさかと思って急いで操作して受信ボックスを開く。………友人からだった。
とりあえず中を開く「0時ぴったりに送りたかったんだけど、寝ちゃって出遅れちゃった><誕生日おめでとー!」とたくさんの絵文字でデコられた文章が書かれていた。相手が違うよ…いや嬉しいけども。

朝から30%くらいテンションが下がったけども、まあこれも仕方ないとしてとりあえず登校する。
教室に入ると、仲のいい子たちから誕生日おめでとうの言葉を浴びせられる。嬉しいのだけど、嬉しいんだけど…一番聞きたいその声はその中にはなかったのが少し寂しかった。

「ありがとう、メールも…プレゼントまでありがとう!うれしい」
「ううんー、おめでとーう」

友人たちからプレゼントを受け取る。正直に嬉しいので笑顔でお礼を返す。
集まっていた友人がそれぞれ席に着く間に、いつのまにか背後に立っていた白石が「もてもてやん、うらやましいわ」と声をかけてきた。

「え、いたの?!」
「おったら何かまずいんか?」
「あ、いや…おは、よ」

彼はいつも通り、いつも通りの挨拶をする。いつも通りすぎて10%くらいまたテンションが下がった。
今日は、私の誕生日のはず。白石は私の彼氏だったはず。義務ってわけじゃないけど、やっぱりおめでとうの一言でいいからほしいわけで…でもおめでとうの“お”の字も出なかった。いや、おはようの“お”なら出たけども。
私の誕生日を知らない…わけがない。だって、こんだけ誕生日おめでとうと言われてプレゼントも渡されてて、白石はそんな私の背後に立っていたわけだから。何も用意してなくても言葉くらいかけてくれるはず。

確かに白石はみんなの前であんまり、二人で居るところを見られたくなさそうだし、教室内で二人で喋ることもあんまりないけど…今日くらい、いいと思う。何がいいかと問われればどう答えていいのか迷うけども。白石が私と一緒に喋ってるところを他の子に見られたくないのってやっぱり私が隣に居るのが恥ずかしいってことなのか。不釣合いなのは分かってるけど、それでも私を選んでくれたのは白石なのに。寂しい。
彼は完璧と謳われる人で、そんな自分に誇りを持ってる。有終の美を飾ることが一番の喜びのように言っているくらいだ。そんな人が私を隣に置いて自信も誇りも持てるはずがない。私はもしかしたら彼にとって恥なのか。でも私を好きでいてくれるのか。でも他の人の目に触れられるのは恥ずかしい、のか。
何で自分の誕生日にこんなこと延々考えて凹まなくちゃいけないんだろう。今日は、苦しくて泣いていい日じゃなくて嬉し泣きをする日のはずなのに。

寂しい、悲しい、白石が恋しい。

もらったプレゼントたちを鞄に移したあと、白石の方を見る。ばちりと視線が噛み合った。けどすぐに逸らされる。そのことが気まずくて私も視線を机に落とした。白石の背中、見れない。

「白石」
「なん」
「今日、」

放課後、みんなが散り散りに教室を出て行く中白石を捕まえる。彼は部活行かなあかんから用なら手短に頼むわと断りを入れた。そのことに対しても寂しさを覚えて言いたい言葉が喉に詰まった。息も詰まりそうだった。

「私の誕生日だった、んだ」
「…ふーん?」
「それで、あの…」
「で?」
「えっ…そ…、それだけ…」
「ほな部活行ってくるわ」
「…うん、頑張ってね」
「おん。ああ、誕生日おめでとさん」

ついでのように言われた言葉は今日一番聞きたかった相手からのもので、私が一番もらって嬉しいもののはずなのに。
顔が熱くなる。照れとかそんなんじゃなくて、苦しくて。変にこだわってる私がおかしいの?
ほしかった言葉を貰えたのに、嬉しくないよ。どうしてこんなに、悲しくなるの?

「何で、泣いてるん?」
「ない、て…な」
「泣いてるやん」
「だって…っ」

嬉しいはずなのに喜べないんだもん、小さく告げれば白石はくだらないとでも言いたげな表情を私に向けた。なぜか恥ずかしいと思ってしまった。どうでもいいとかくだらなくなんかないよ。

私にとったら、すごく大切なことだったんだもん。大事な日なんだよ。子供みたいだけど、子供じみた考えだけど。白石にはこんな子供みたいな私を理解できないかもしれないけど。

「泣きたいんはこっちやわ」
「…な、なんっ、で…」
「折角、人が…」

はあ、と彼は言葉の続きの代わりにため息を吐き出した。そして携帯を取り出してカチカチと操作した後、ホラと私にその携帯を差し出した。とりあえずそれを受け取って画面を見てみる。そこには見覚えのあるアドレスが表示されていた。




Sub エラーレポート
送信されたメッセージはお届けできませんでした。

送信日時:00:00:28
件名:こんばんは
本文: 
出来れば一番乗りがええな。誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう
いつも上手く愛情表現できなくてごめん。意地悪ばっかしてごめんな
今更やけど、名前が居るから俺も頑張れてる。側に居ってくれておおきに

これからもよろしくお願いします
おやすみ




「…………」
「日付変わるまでずっと悩んでたんや、なんて送ろうかって…自分の気持ち文章にすんのむっちゃ難しかったわ」
「…エラーメール…」
「1年分の勇気振り絞って日付変わった瞬間送信したんに、10秒で返事戻ってきてびびったわ…」

どういうこっちゃと不愉快そうに顔を歪めた白石の顔がぐにゃりと崩れた。

「…ごめん、ごめんね…っ」
「ま、俺も大人げなかったわ」
「……白石にだけアド変メール送り忘れてたわ」
「今むっちゃ傷ついたんやけど、何これいじめ?」
「し、白石には一斉送信と別にしたくて…そのまま忘れて…!」
「俺むっちゃアホみたいやん」
「白石ごめんっ、ありがとう、ありがとうありがとうありがとうありが、」

ふっと景色が一瞬消える。その後に見たのは、頬をほんのり赤く染めて斜め下を見つめてる珍しく照れている白石だった。ほんのりと頬を染めた彼に比べて、私はボッと爆発したように顔が赤く熱くなった。

「何回言うねん」
「今っ、ちゅーした…!」
「そやったら何やねん」
「ここ、教室…っ」
「今日くらいええやろ、特別な日やねんから」

ぎゅう、と腕の中に閉じ込められる。

「白石、部活」
「特別な日やからええねん」
「よくないよ」
「じゃあ、蔵ノ介って呼んでくれたら行く」
「く、く、くら、くらのすけっ」
「そんなすぐ言うなや」
「……大好き」




ふりしぼれ勇気、つたわれ恋心



1周年記念/アメジスト少年