Main:short | ナノ
×



ベタベタした白い液体が端から端へ塗られていく。彼女は、先日手に入れたつけまつ毛というものと戦っていた。何でくっつかないのだの、あーもう失敗したなんなのこれ、だのとさっきから苦情が絶えない。そんな面倒くさいものをわざわざ付けたがる彼女の気が知れない。付かないのならば付けなければいい。というかマスカラはどうしたマスカラは。
ふっさふさのつけまつ毛を必死にまつげの上に貼り付けようとがんばっている彼女を見ながら、この図はねーなと思った。あんまムラッと来ない。

「女ってのはよく分かんねーな。何でンなもん付けたがるんだか俺には理解できやせんねェ。つーかつけまつ毛って何。キモイんだけど。付けた後重くねーの」

化粧台の前の彼女は俺の言葉もスルーして、うれしそうな声をあげる。どうやらまつ毛との戦いに勝利したらしい。ンなニセモンのまつ毛に俺ァ騙されませんぜ。またしても彼女は俺を無視して自分のまつ毛に夢中になっていた。
もう片方のまつ毛もまぶたへ接着して、彼女は満足そうに鏡の前で微笑んだ。苦戦した右目のまつ毛をちょんちょんと指先でいじっているのを眺める。女ってのは本当に面倒だ。色々な面で色々とめんどくさい。つまんねーと心の中で呟きながら転がしていた身体を持ち上げてベッドの上で胡坐をかいた。彼女は一つため息を漏らして、やっと俺を視界に入れると、「まつ毛が重いのは総悟への愛の重さなんですよ」と言った。

「そら大変でさァ」

人工睫をした彼女の目はでっかくなってて、睫もいつもより長くて確かに手間がかかってるだけあるなあと関心してしまった。俺のために苦労してんだなあ、と思うと胸の中心がキュッと締め付けられた。


俺のために頑張る彼女が一番可愛いかった