星とメランコリー | ナノ
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字幕トーク



授業終了の知らせが学校中に響く。先生が教卓の上のプリントをまとめながら挨拶している。先生が教室から出て行くのも待たず、そそくさと教室を誰よりも先に後にした。
授業が終わる20分くらい前に、突然気分が悪くなった。その少し前に、自分の席の前に座っている女子が小さいメモ用紙を先生に隠れて渡し合っているのを見かけた。メモ用紙に書かれた内容はわからない。多分今日の放課後どうしようか、そういった内容だったかもしれない。手紙交換を眺めていた。そこから急に気分が悪くなって、頭がいたくなって、腕で頭を覆って寝てる振りでずっと痛みに耐えた。

保健室のドアを開けると、運がいいのか悪いのか先生は不在だった。利用者名簿に名前を書いて、ベッドがある場所のカーテンを引く。休み時間になったばかりだからきっと誰もいないだろう。たぶんもう5分たっても気分はよくなりそうにないから次の授業は出られそうにない。次は美術だからサボっても大丈夫かな。どうせ今日も課題の絵の続きをやるだけだろうし。家に持ち帰って完成させた私は出なくても大丈夫だろう。課題提出は確か来週だったと思うし。

一応成績のことを考えてみる。まあ体育意外の科目なら大丈夫だろう。皮肉なことに寝れない分、進みはあまりよくないが勉強しているのでテストなどでは高得点を出せる。テストで点を稼ぐのが一番楽だな。

とりあえず次が美術なら何の心配もしないで横になれる。もしかしたらちょっとくらいは寝れるかもしれない。

いつも通り、窓に一番近い奥のベッドを使おうとそっちを見ると先客がいた。先生がいることよりも、誰かが保健室にいる方が私にとって都合が悪いので非常に気まずい。寝ているのならまだ平気なものの…非常にまずい時に来てしまったかもしれない、これは。しまった、という顔が表に出ていないことを祈ろう。

ベッドの上には上半身を起こして、めんどくさそうな顔をしている男子と、その奥に椅子に座っている女子がいた。大方男子の方が体調が悪いとベッドに横になりに来て、それを心配した彼女が看病かなんかに来たってとこだろう。それにしては男の方の顔や態度がめんどくささを物語りすぎな気がしないでもないが。まあ、気分が悪い時に誰かがそばにいたら休めないし逆に気を遣うことだってあるか。

目の前の男女は一瞬だけこっちを見ると、そのまま向き合って話し出した。男子の方は黙ってきいていたけど。休みたいのに話しかけられちゃ休めないんじゃないかなあ、と思いながら仕方ないので男女から一番離れたベッドの方に移動しようとした。

「授業中いきなり気分悪いからって出ていったから心配したんだよ!」

なんとなく目の前にいた二人が気になって移動する前に奥のベッドの方に目を向ける。心配してますオーラを出そうとしてるのか、眉を下げながらベッドに乗り出して彼に話かける彼女の口元は笑っていた。あの二人は付き合ってはいないんだと、なんとなくそんな感じがした。多分彼女の片思いだろうな。なんて勝手に解釈してみる。

「なあ、お前もう教室戻れや」
「え、なんでー? 心配だから寝るまで側にいたいやん!」

彼と居れるのが嬉しいのはわかるけど、心配ならそっとしておくべきなんじゃないだろうか…まあ私には関係ないけど。
いい加減横にならないと吐き気までしてきそうだったので、ベッドの方へ体を向けようとしたとき(これ完全にお邪魔だよね。しかも何若いカップルの青い一ページを盗み見てるんだか…悪趣味だな自分)
突然、何の前触れもなく、ベッドの上にいる男子が私の方を向いて口を開く。え、もしかしなくても私に話しかけてるんだよね、これ。

「あ、先輩。待っとったで。授業終わってから来るなんて遅いわ。待ちくたびれたで」
「え、あの…」

今までめんどくさいというか迷惑そうな表情をしていた彼が、口元に笑みを描きながら私に向かってそんなことを言う。え、なになにどういうこと? 私この子と何か約束してたかな? いやそんなバカな。ないない、だって私この人のこと知らないし。いや、待てよ。知ってるかもしれない。でも話したのは今が初めてだし、一体今何が私の身に起こってるっていうんだ。私はほんとに体調が悪くて自分の意思でここにきたわけで、決して彼から何か誘いがあってきたわけじゃない。だから待ちくたびれたとか言われたって私のせいじゃない。

「え、どういうこと? あの人誰なん!?」

椅子に座っていた女子の方が立ち上げって、こっちを指差して叫ぶ。あの人誰なん、って私が聞きたいよ。あなた方誰ですか。どういうことと言われても困る。私は何にも関係なくて完全な部外者のはずなのに。

「そういうことや。せやから早う教室戻れや。遅刻んで」
「なっ、!?」

彼女は顔を真っ赤にさせ、「なんなんそれ、ひどない?!」と彼に向かってるのか私に向かってるのか判らないがこっちを睨みながら叫ぶとそのまま保健室を出て行った。確かにひどいとは思うけど彼女の方も大概なんじゃないだろうか、なんて思うのは私だけなのか。