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散らばった破片 白石が私を前にして盛大にはあと溜息を零す。え、私また何かしたっけ? 白石は現在私の前の席に座って私の机で恒例の白石ノートを広げ色々と書き加えている最中だった。度々顔を上げて私を見る。そのたんびに盛大に溜息を吐くのだから居心地の悪さ頂点を極めていた。自分に原因があるのかも、と自分の最近までの行動を思い返してみる。 まさか、白石ノートを手にする度に白石を思い出してしまって、その度に奇声をあげながらノートを至る所に投げつけていたのがばれたのだろうか。気付けば新品だったはずのノートは使い込まれたようにボロボロになっていた。それ以外には得に何も思い付くものがない。両親と話し合ってからというもの私の中にあった遠慮というか両親への負い目後ろめたさがなくなり食事もよく一緒にとるようになった。そのため食事自体を抜いて倒れることはなくなったし、夜も最近は以前よりも寝付けるようになったので学校にも前より来れるようになった。授業中気分が突然悪くなることもあまりなくなり私は着々と健康へと向かっている、はず。白石ノートに書かれていることも積極的に行っている。だとすれば白石が私を見てこんなに気を落とすのはやはり私のノートに対する扱いが悪いからだろう。決してノートは悪くないし、白石が悪いわけでもない。悪いのは全て私にあるのだ。 「白石、ご、ごめんね。でも大切にしてないわけじゃないんだよ…?」 「ああ、ええねん。大切にするんは当たり前や。それを捧げたんはつまりそういうことやろ…解ってるから心配せんでええで」 「ん?…ささげ…?」 大切にするのは当たり前、か。そうだよね白石が私のためと思って今もこうして丁寧にあれこれ考えてくれながら文章を書いてくれているのだから。でも捧げたのはつまりそういう…って何だ? 解ってるから心配しなくていい?…解ってるから、解ってるから……? しかも心配しなくていいって? ちょっと待て、何か、私が白石を思い出して照れてノートを投げ飛ばし白石好き!みたいな葛藤を繰り返してるのを白石は知っているということ? それで心配しなくていいってどういうことだ?心配しなくていいって何をどうしたら心配しなくていいんだよ、心配だらけじゃないの。 机を掌で叩けば、バンの大きな音に白石は肩を揺らしながら顔をあげ目を丸くしたまま私を見た。今回は溜息を吐かなかった。 「心配しなくていいってどういうこと!」 「や、つまり…大切にしとったんは解ってるから適当に扱ってないって解ってるって意味やけど…」 「うん、まあ、そうだよ、そういうことだよつまり」 力強く頷く。それを見て白石はまた大きな溜息を吐き出してノートと再びにらめっこを始めてしまった。だから溜息の意味はなんなんだ。元気がなさすぎるよ白石…もしかして片思い中のあの子(誰か知らないけど)と何かあったんじゃないだろうか。チクリと胸に刺さる痛みを隠すように白石から視線を外して窓の向こうへ視線を送る。そういえば、白石と初めて喋った日もこうして空を見ていた気がする。そこで思い出さなくていいあの日の出来事まで記憶に蘇ってきた。身震いするほどの光景が頭の中をふっと駆けていった。 「白石たちさっきから会話噛み合ってないんちゃう?」 「へ?」 「謙也…」 ぼりぼりじゃがりこを食べながら忍足がきょとんとした顔で私たちを見下ろしていた。ああ確かに白石の返答にはおかしな点がいくつかありましたけども、それは愛しのあの子と何かあってしょげてきっと混乱しているから日本語がおかしくなったんだよ。ふっと自嘲したような笑みを浮かべれば忍足にすかさず「なんやその顔!なんやそのイラっとくる顔!」と叫ばれた。忍足は元気だな。白石も私も元気じゃないんだよ。 「せや、白石」 忍足がじゃがりこを私に差し出しながら思い出したように白石へ顔を向ける。白石はノートへ書き込むのを終えて頬杖を付きながら先ほどの私と同じように空を仰いでいるところだった。 「お前、財前に何かしたん?」 「えっ…」 「どーせ最近サボりすぎやって注意でもしたんやろうけど…かなり凹んどったで」 「いや、注意とか…」 白石はそこでハッと目を一瞬だけ見開いて言葉をそこで途切れさせた。 「部活のメニューでも増やしたったんやろ、災難なやっちゃな」 がりがり、がりがり、何も言葉を発さなくなった私たちの間にじゃがりこの噛み砕かれる音だけが響いた。 |