星とメランコリー | ナノ
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僕らの行き着く先は


白石お前そんなことして大丈夫か?なんて言ってはみたものの今の白石を正気だとは思えない。大丈夫やないやろ白石も名前も。それでも白石は俺の制止に耳を貸すこともなく俺を睨みながら白石は言う。

「お前に言われてから色々考えてみた。けどこれが俺の苗字さんを守るやり方や」

ここまで来たらもはやそれは白石個人のエゴなのではないだろうか、そう思った。誰が聞いたってそうだろうとも思う、けど俺はそれ以上口を挟めなかった。きっとこいつなりの救い方で、名前を苦しみから決別する方法だと、答えを出した。俺は白石も名前もどちらも大事で、白石が名前のためを彼女の幸せを考えて出したエゴなら俺はそのエゴを貫いて欲しいと、そう結論を出した。でも現実問題きっついなぁとも思ったので俺はとある人物にコンタクトをとった。

奴を丸め込みことを進めるのに丸一日を要した。スピードスターの本領発揮っちゅー話や。
そして当日、俺と白石そして名前は誰もいないグラウンドの端に集まっていた。
白石の顔は強張ってるし、名前なんて白目向いて倒れそうな勢いや。俺やってこんなことになるなんて思ってもいなかった。俺はただ用があってそっちに行くけど時間かかるから何時になるかわからん、そう告げただけだったのに。まさか自家用ヘリが東京から大阪の学校のグラウンドまで迎えに来るなんて思わへんやろ、普通ちゃうで。東京人はみんなこうなんか?!
侑士、お前はもう身も心も東京モンになってしまったんか…?唖然とする俺をよそに軽く砂埃が舞うグラウンドを突っ切ってくる2人の男に俺は世界の違いを感じていた。

「いきなりでびっくりしたわほんま…東京来たいならもっと早く言いや」
「いやこっちがびっくりしたっちゅーねん!なんやお前それどんな迎えやねんちゅーか迎えまで頼んでへんぞ!」
「何時になるか解らんて言うからせっかく学校休みなのにもったいないやろ、気遣いやん」
「お前ら学校休みちゃうやろ!」
「ええねんええねん、生徒会長が一緒やから」
「生徒会長サボりとかアカンやろ!生徒会長が授業サボって自家用ヘリで大阪とかダメやろ!」
「アーン?ごちゃごちゃうるせーな、時間がもったいねえんだろ。早く乗りな」

本場大阪、大阪人の俺でさえつっこみきれんわ!東京恐いな!生徒会長がサボってヘリコプター飛ばすか普通、いや跡部は普通ちゃうわ!普通ちゃうぞこいつら!!俺もう足元ガクガクやで!?

「ちょ、っと…白石、東京って!?」
「ま、ちょっとした東京旅行ってやつ?」
「そんな顔に影作りながら言われても安心できないよ!ていうかこの人たち誰ですか!?」
「あー…眼鏡が俺の従兄弟で、その隣の奴が従兄弟の友達なんや」
「忍足の…従兄弟…?」

名前が急におとなしくなって俺と侑士に目を言ったり来たりさせる。その間に白石が名前を上手い具合に運びヘリの中まで誘導していた。こいつほんまちゃっかりしてんで。

「忍足侑士言います、よろしゅう」
「あ、どうも苗字名前です」
「こっちがこいつの友達の跡部や」
「アーン?お前俺様の友達だったのか?」
「(お、おれさま…!)」
「ちゃうやろ、もっと深ぁい仲やんなぁ」
「ただの知り合いだ」
「つれへんなあ」
「………(忍足の従兄弟…忍足の…)」

名前はふらふらしながら適当に相槌を打ったりしてる。たぶん混乱しすぎて今の自分のおかれてる状況を解ってない。自分がヘリに乗せられ今から東京に行くことすら把握できていないんじゃないだろうか。白石と跡部が部長同士の会話を始めたので俺は名前の相手をすることにした。侑士から名前を守れるのは今この場には俺しかいない。

「名前ちゃん全然なまってへんなぁ、どこの人?」
「東京、かな…」
「おいいきなり名前ってどういうこっちゃ名前も名前で呼ぶな眼鏡言うたれ」
「い、言えるわけないじゃん…!」
「東京かぁ、俺らと同じやんな。どこやったん?」
「侑士も侑士で俺のことスルーすんなや」

名前のことを盗み見る。名前の以前いた学校に興味があるわけじゃない、でもないわけでもない。でもきっと本人は学校の名を口にすることさえ躊躇うはずだ。俺が以前聞いた時もさりげなく交わされた記憶がある。
現に今名前の両手は俺と白石の服の裾を硬く握り閉めている。白石は跡部との話に夢中なのかこちらに聞き耳を立てているのか知らないが、たぶんそんな名前に気付いていて微かに震える彼女にも気づいているはず。
それと同時に、名前も気付いてしまったのだ。白石が、俺が今彼女にしようとしていることに。そのことを察してしまった彼女は諦めたように俺と白石を交互に見てからかたく閉じていた口を開いた。
彼女のためと言ってただエゴを押し付けていることに俺だってきっと白石だって気付いている。名前はそんな俺たちを恨むだろうか許してくれるだろうか。彼女に今まで以上の恐怖を植え付けることになってしまったら、俺たちにも心を開いてくれなくなったら、今まで以上に恐い思いをさせている俺たちをどう思うだろうか。俺も白石もきっとそれが一番恐い。エゴだなんだ彼女のためだなんだと言っておきながら嫌われるのが恐いなんて、俺たちはなんて虫のいい人間なんだろう。白石の始めたこの意地をだからこそ貫き通さないといけない、それは乗りかかった俺も同様に。
名前の口にした名にしばし静寂が訪れる。それはたまたまできた沈黙だったけど、白石はこの機を待っていたかのように跡部に声をかけた。

「俺たちの目的地なんやけど、そこで降ろしてもらってもええか?」

名前の目が見開かれるのを俺は見逃さなかった。目の前にいる忍足はなんや訳ありか?と膝に肘をついて手の上に顔を置きながら訊いて来た。侑士には協力を仰いでおいて悪いけど詳しい事は話せそうにない。彼女の問題を俺が誰かに話していいわけないから。
そうなんやない?同じく疑問符を付けて適当に侑士に返せば奴はさして追及はせずに「ま、がんばり」とあっちもあっちで適当な返答を返された。さすがやで侑士。グッと親指を立てたら何故か頭をはたかれた。

「なっにすんねんドアホ!」
「ああスマン手がすべった」
「んなわけあるか!」
「いやなんや謙也のそのポーズとドヤ顔にイラッときてもうてな…」
「ああ?それやったら跡部なんていつも変なポーズにドヤ顔やんけ!」
「謙也…」
「おい、おしたりーず」
「はーい!って何でやねん誰がおしたりーずやねん」
「テレタビーズみたいになっとるやんか!」
「(テレタビーズ……)」
「……降りるか?」
「すんませんでした」
「おとなしゅうしとくんで落とさんでください」
「……跡部さんって強いですね…」
「いやあおしたりーずがアホなだけやろ」
「白石お前どっちの味方やねん!」