星とメランコリー | ナノ
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不完全の克服


「なあ、苗字さん今度一緒に買い物行かへん?」
「えっ?!」

思わず掴んでいた箸を落としそうになった。笑顔でそう訊いてきたのは最近お馴染みの平本さんで、今は皆大好き昼食タイムで、私は珍しくお弁当を持参していて……そんな時だった。
母の気まぐれで作られたお弁当が嬉しくて、ただの気まぐれでもすごく久々でそれが新鮮で嬉しくてちょっとだけ素直に喜べないのが複雑で、そんな思いを抱えながらお弁当のおかずを食べていたら、平本さんから冒頭の誘いを受けた。

「うちら学校以外で会ったことないやん、親睦深めたいねん」

ええやろ?と首をかしげながら訊いてくる平本さんにどうしたらいいのか迷いながらそれでも「いいよ行こうか」とクールぶって答えていた。素直じゃない私がとことん可愛くなくてそんな自分に溜息を吐きたくなった。もっと素直に自分の感情を表に出せたらいいのに。もっと素直に自分の思いを相手に伝えられたらいいのに、そんな自分が理想であり目標なのに実行できないのがとても歯がゆい。


「ほな明日の土曜日2時に駅前集合でええな?」
「うん、わかった」

約束の時間と場所を頭の中に刻み込んで、ちょっとした幸せと楽しみを噛み締めながらお弁当のおかずを口に運んだ。母親がつくるお弁当というのは中々美味しいものだ、心の中で呟いてみたらなんだかおかしくて、何故か変な気がしてちょっとだけ笑った。そしたら平本さんに不振がられて必死で弁解する私がやっぱり変でおかしくてまた笑いが漏れた。
そしたら今度はそんな自分をいつの間にか近くに来ていた白石に目撃されて笑われてしまった。なんてこった。

ぼーっとしながら二人が話すのを見ていると話がだんだん明日のことについてになってきた。

「ええなー」
「ええやろー白石も来る?」
「残念ながら明日は部活やねん…」
「あちゃーそら残念やな」
「また今度誘ってな? 約束やで」
「うん、白石おったらきっと楽しい!」

両肘を机について手の平に顎を乗せながら二人を見守る。ほうほう、と自然にもれてしまった。
なにやらこの二人、いい雰囲気だぞ。なんか二人の背後にピンクや黄色い花が舞っているのまで見える始末だ。これは、この二人がお似合いだということだろうか。
確かにここ最近この二人よく喋る気がする。ふむふむ、いい感じじゃないのかこの二人、なるほど。


この日は当日着る洋服と、平本さんと白石の二人について延々考えていたらいつの間にか朝だった。つまり平本さんは白石が好きなのか、だからいつも白石と話す時と私と話す時とで顔が違うのか…そういうことだったのか。白石も平本さんが好きだからよく私達のところにやってくるのか。そうかそれで全部つながる…あれでも何かちがくないか?そして明日、いや今日はスカートで行くべきなのか?私服がダサいなんて思われたくないな、でも女の子すぎる格好で行ってもそれはそれで…でも適当すぎる服装で行くのもあれだし…そんな感じで夜が終わってしまった。
結局今日も寝れずじまいかと溜息を吐いたけど、寝坊しなくてすんだと思ったらまあラッキーだったなの一言で片付けられた。どうも今の私は上機嫌らしい、単純だ。
でも何故か覚える一抹の不安はなんなんだろう。頭をひねると心配事ばっかでむしろ心配事しかなくてこの不安の正体はきっと自分が今日何かやらかさないかという心配だなと理解した。普通に、平常心に、落ち着いて、自分をなんとか励ますけど、不安が掻き消されない。私はやっぱりネガティブ思考の申し子なのだろうか。いやそんなの今更じゃないの解りきったことじゃないの。いやもしかしたら開き直りの申し子かも…いやいや…いや…いや…