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花蘇芳の季節を抜けて 彼女は、何の惜しげもなく自分のことをよく話してくれる。 何で、こんな子が私なんかと仲良くなりたいなんて思ってくれたんだろうか。どうしてこんなに優しく接してくれるんだろうか。笑いかけてくれたり、気にかけてくれるのはどうしてなのかな。 白石も忍足も財前も…私なんてほっとけばいいのに、どうして関わりを持とうとしてくれるんだろう。些細なことで、それがみんな当たり前のような顔をしているけど、私は今とても自分が世界一幸せもののような気がしてくる。当たり前と言われるようなことがこんなに嬉しいなんて、知ってる私はなんてラッキーなんだろうか。 「苗字さんのお昼それだけなん?」 「うん」 「お弁当は?」 「作る時間なかったんだ」 「え、お弁当自分で作るん?親は!?」 「うーん、作らないかなぁ」 「苗字さんかわいそうやな!このウインナーあげるわ!あとこの卵焼きもらってや!」 ひょいひょいと彼女は箸でおかずを摘んではお弁当箱のふたに取り寄せていく。それをずいと私の目の前まで差し出すと、断るすきを与えまいとお弁当箱の蓋についていたフォークにウインナーをぐさりと刺して、ぽかんとしていた私の口へ突っ込んだ。 「ぐふっ…!」 「おいしいやろ!」 「ん、んふっ…!」 彼女は楽しそうに笑う。涙目の私に顔真っ赤になっとる!とはしゃぎだす。誰のせいだ誰の。 平本さんは、私とは対照的な位置にいるのかもしれない。私にとって当たり前でないものが、彼女にとっては当たり前で。私があがいても追いつくことのできない場所に易々と辿りついてしまうような、そんな子だとそばに居てわかる。 「苗字さんってずっと思っててんけどな」 「ん」 「笑うの下手やんか。この前も言ったけど」 「うん、あんまり表情変えないから笑い方がちょっと分からない」 「笑ってるようで泣いとるように見えんねん、苗字さん私とおって楽しい?」 「…………」 使い終わったフォークを蓋の上へ乗せる。 「平本さんが、隣に居てくれて、嬉しいよ」 「なんや…」 「えっ?」 ちょっと乱暴に私の手元にあったお弁当箱の蓋を取り上げると彼女は人を試すような顔をしながら一言私に告げる。背筋が若干伸びた。 「ちゃんと嬉しそうな顔できるやん」 |