星とメランコリー | ナノ
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気になる寝癖


自分が幸せだと感じてしまったら、その幸せが消えていくような、そんな気持ちを言葉にするとしたら、一体どんな単語で表すんだろう。―― 不安? それとも、欲望、欲念、欲求…どれだろうか。もしかしたら全然違うものなのかもしれない。
私は、今幸せを感じているんだろうか?
何を定義に幸せと呼ぶのだろう。私は言葉にしたら今、どんな気持ちなんだろうか。やっぱり“不安”の二文字なのではないだろうか。幸せだと感じたら、きっとその幸せが崩れることに不安を感じる。幸せだと思えないのなら、いつか幸せになれるのだろうかと不安になる。不安なんていつもどこでも付きまとうものなんだ。

私はきっと、誰かを心から信じられる人が側にいてくれたら本当に幸せだと感じるんだろうな。そんな人がもし仮に現れたとして、失うことに不安になって、また裏切られるのかもしれないと不安になる。そんな不安ばかりな環境の中で私は本当に幸せだと感じることができるのだろうか。
そもそも、幸せ幸せと言っているけど、幸せってなんなんだ。

*****


「なあ、謙也」
「ん?」

男子トイレの鏡の前で、自分の顏と向き合いながら謙也に声をかける。真面目な顏した俺が鏡の中に映っている、なんだか気味悪いような…って自分の顏に何言ってんねん。そんな真面目な顏の俺以上にマジな顏した謙也も俺と同じように鏡の中の自分と対峙していた。普段は跳ねていない部分の髪が今日は元気に跳ねている。
寝坊したらしく、頭も起きたままの形で出てきたらしい。教室に入ってきた謙也の髪は、走ってきたこともあって起きた時の頭よりひどいことになっていた。本人がそう言っていた。クラスの連中にかめはめ波を出してみろと笑われていた。

「自分の悪口って裏で言われるのと目の前で言われるの、どっちが辛いと思う?」
「そんなん…」

アホかお前、とでも言いたげな目をしながら俺を見た謙也は、言葉を途中で区切ったあと、ハッとしたような顏をする。

「なんや」
「…わからん」
「は?」
「どっちも辛いとしか言えん」
「まあ、そらそうやろな」
「何で急にそんなこと訊くんや」
「別に。さっきお前の悪口聞いてもうたから、どっちが辛いんかなーって思っただけや」
「なっ、おっま、それここで言うか?」
「あの人また遅刻したんすかー教室から走ってるの見えましたよー、しかもボタンかけ間違えとったしー、ほんまあの人アホやなー」
「え、なんなん。なんなんそれ!?」
「ホンマやー、ボタンかけ間違うとるわ…あいつ目いいんやなー」
「財前やな!? 財前やろ!」
「謙也はアホや言うとったで」

ムッとしながら謙也が、財前の奴後で覚えとけと呟いている。ぴょこんと、さっき直したばかりの寝癖が立った。

「まあなんや、アホっぽい」
「何や白石まで!」