星とメランコリー | ナノ
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不幸を数える



パソコン画面を覗いていると、あっという間に時間がたつ。あまり使わないノートパソコンを引っ張り出してカタカタとキーボードを叩き、マウスを動かしてクリックしていればさくさくといつもの暇な時間が進んでいく。
不眠症というキーワードを某大型検索サイトで検索する。一瞬の内にディスプレイには全部見てまわれないくらいのサイトリンクが映し出される。サイトの紹介文から、自分の心境に近いものや気になる内容のものを探す。
過去に何度かこうして、『不眠症』というものを調べてみた。何度も何度もこの単語を調べている。けれど、検索結果として出ているサイトを全て読み終えることはできなかった。
不眠症ってなんなのか、どうしてなるのか、なってしまったらどうしたらいいか、解決方法も苦しみ方もそれぞれだった。中には私と似たような境遇の人がブログを書いていて、自分の世界とか身に起こったことなどを綴っているのを読んでボロボロと泣いてしまったこともある。私と似たような人は何人かいた。そのことにどこか安堵して、私ひとりじゃないんだ、私がおかしいわけじゃないんだと自己防衛する道を作った。そしてその人たちと比べて、『ああ、私はこの人よりもマシだ』とか『この人と比べたら私の方がずっと嫌な目に遭った』と、自分に同情するきっかけを作っては見下したりもした。不幸自慢というのだろうか、安心して同情して見下して、結局は自分に都合のいいように解釈してしまっている。

検索欄に書いた『不眠症』の隣に一つスペースを開けて『いじめ』と打ち込んでエンターを二回押した。バッとリンクの付いた文字が並ぶ。
私以外にも、こんなにいじめにあって不眠症になった人がいることにまた安心して、比べて、不幸自慢を始めてしまう。そんな私が大嫌いで、諦めている。これが私なんだと受け入れてしまえば、無理に変わることもないと諦めている自分がいた。

いじめのきっかけなんてみんな大したことない。グループの女の子に意見したら話が合わないと無視されてイジメに発展してしまった、とか、男子と仲よくしすぎてその嫉妬から女子とうまくいかなくなって、とか、理由はさまざまだけど。ほとんどの理由が他人のせいだ。私の場合、クラスの女子を仕切っていた子にちょっと意見して口論になり、そこからいじめというものに発展してしまっただけだ。原因なんて、どうでもいいとすら思う。
原因より、やられたことの方が受けた方は記憶に残っているし、恐怖心も根付く。

ああ、また何日も寝れないでいる。

机の引き出しに入っている白い小袋の口の方を逆さにして中に入っている小瓶を取り出す。
小瓶の中には白い小粒のようなものがいくつも入っている。病院に行ってもらってくる睡眠薬を小瓶に移して集めたら結構な数になってしまったのだ。

結構な数の錠剤が入った瓶を見つめていると、たまにふとこれ全部飲んだら楽に死ねるのだろうか、と思うときがある。実行に移したことはないけど。でも今の睡眠薬っていくら飲んでも死なないってどこかで読んだなぁ…。
不眠症にもいろいろあるし、それに伴う症状も様々で、私はやっぱりまだ軽い方なんだと思う。
こう比べてしまっては悪いが、私はただ過去を思い出して眠れない寝ても夢に出てきて寝れないというだけで、食欲低下や食べた物を戻してしまったりという症状はない。以前よりも食べなくなったのは事実だけど、至って普通だと自分では思ってる。

「私は、誰かと比べて…どうしたいの」

自分に問いかけるように呟いてから、パソコンの電源を落とす。机に出したまま置いておいた睡眠薬の入った小瓶から錠剤を取り出す。机の奥に置いてあるペットボトルに半分ほど残っている水と一緒に薬を飲み込む。

そろそろ寝ないと、また倒れてしまうかもしれない。

大丈夫、夢の中では苦しいかもしれないけど、起きたら忘れてるかもしれない。忘れることなんて出来ないけど、夢の中ほど鮮明に思い出すことはないかもしれない。眠りに落ちるまで、まるで子供が寝れないときに数える羊のように、呪文のように何度も頭の中で大丈夫と自分に言い聞かせた。