ノイズメーカー | ナノ
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俺から見たみょうじおなまえという人物は、とりあえず真面目で、空回りが多いが気配りのできるいい奴であって、できた部下である。見た目は…ずば抜けて可愛いというわけでも、十人中十人が振り返るような美人でもない、が とりあえず愛嬌のある奴でとりあえず笑うと可愛い。その辺にいそうだけど、なんか違くて。存在感とか威圧感とかそういうものがあるとは世辞にも言えないような奴だけど、そこにいるだけで空気が和んじまうような…解りやすいけど解りづらい、よく判らない女。それが俺の中のみょうじおなまえだった。

「日番谷隊長―、この書類六番隊からもらってきましたぁ」
「…ああ、ご苦労」

受け取った書類に適当に目を通す。文章を目で追っている間に「それ結構至急らしいですよ」とのんびりとした声が聞こえた。「そうか」とだけ返して書類の内容を頭に入れていく。特別大事なことが書いてあるとは思えない内容だが至急らしいので読み終わったのと同時に筆を握る。

「ん、これでいいんだろ」
「はい。ありがとうございます」

待ってましたと言わんばかりの笑顔を咲かせながら、みょうじは書類を受け取る。それが妙に訝しげで、「書類1枚で何だ」と問えば奴は受け取ったばかりの書類をポイと長椅子に放り投げ「知ってますか隊長」、と締りのない顔がこっちに向けられた。「何がだ」と問えば「書類なんかよりも大事なことですよー」、と嬉しそうに目を細めた。意味がわからない。こいつの専売特許は言葉が足りないことだ。そのくせ余計な一言は多いときた。
つーかおい、それ至急のやつじゃねーのか。そう言おうとして口を開いたが、先に言葉を吐き出したのはみょうじの方だった。

「3時のおやつに勝る用事なんてないですね!」
「は?」
「隊長の分もちゃんとあるんですよー。さっき六番隊に行った時に阿散井副隊長からかっさらってきました!」

言おうと思っていた言葉より先に出てきたのは溜息だった。「たいやき!」嬉しそうに鯛焼きの袋を掲げて見せるみょうじにまた溜息が出た。怒る気にもならない。この脱力感は何だ? いつもなんだかんだコイツに流されているような気がする、実に気のせいであってほしい。

「その書類は至急なんじゃなかったのか?」
「10分20分待たせても平気ですよー。それに私 阿散井副隊長の扱いはうまいんです」

阿散井も大変だな。みょうじに振り回される阿散井に少々同情しつつ、俺の分と渡された鯛焼きを一口齧る。

「…甘ぇ…」
「あれ、隊長って頭から食べる派ですか。私もです」
「そりゃよかったな」
「なんか返事がすごく適当なんですけど」
「お前それ食ったらさっさと六番隊行って来いよ」
「はーい」

まあ、3時のおやつくらいということで今回限りなら許そうと思う。たまにはこういう息抜きもいいな、とは本人には言わないことにした。ぜってー調子乗って“明日も何か持ってきますね!”とか言い出しそうだ。