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丸井は、12時ぴったりに、私の家の玄関に現れた。 昨日から緊張してあまり寝付けなかった私に対して、憎たらしいほどに輝いた笑顔を向けた丸井。曇り空に似合わない笑顔が私を迎えていた。一方私は空模様のように曇っている。寝不足だった。遅くまで一人ファッションショーが行われていたことをこの男は知るはずもなかった。勿論、言うつもりもない。 丸井のプライベートに携わることに関して、私は幾度も思考を巡らせた。それなりに、可愛い格好をしてないと丸井に悪い気がした。視覚的に丸井を楽しませるというのではなく、私のせいで丸井が何か言われるのが嫌だったからだ。こう言っては自意識過剰にとられるかもしれないが、もしも私達が恋人同士だと思われたとき、隣の私があまりにも不釣合いだったら丸井が可哀想に見えるだろうと、私なりの優しさだった。 「時間ぴったりだね」 学校では遅刻魔なのに、と続ける。 「俺 約束は守るタイプー」 ほんとかよ、と冗談めかしてツッコミを入れてやった。丸井の私服を拝むのは初めてで、やっぱり学校での丸井とは違って見えた。もう少しクリアな視界で拝みたかったものだ。ぼやけた線の中でもわかるのは、丸井はオシャレさんだったということ。そのセンスを私にもわけてほしいものです。 「んじゃ、行くか」 「うん」 丸井はいつも通りで、どうやら緊張していたのは私だけのようだった。なんとなく、置いてけぼりにされているようで寂しい。それから、ほんの少し悔しい。私ばかりが楽しみにしていたんじゃないか、って思ってしまう。提案して来たのは丸井の方なのに。 す、っと繋がれる手に、今さっきとは別の意味で心臓が痛んだ。それも、いつもの倍くらい。私服効果なのか、学校外だからなのか知らないけど、そろそろ落ち着いてくれないと心臓麻痺になってしまいそうです。恥ずかしくて、心臓以外に意識を向けたくてぎゅっと繋がれている手に力を込めた。そしたらもっと恥ずかしくなった。丸井が、存在を確かめるように、握り返してきたからだ。 「どうかした?」 「別に、なんでもない」 「なんか顔赤くね?」 「いつものことでしょ!」 「なんだそりゃ」 やけになって叫んだ私に、丸井が顔を崩して笑う。 「だだだって、なんか、デートみたいなんだもん!」 「はは、なーに言ってんだよ」 「うん、でも、やっぱ緊張するよ」 「デートだろ?」 いたずらを仕掛けた子供のように笑う丸井が、これ見よがしに繋がれた手を持ち上げて見せた。いいい、意地悪だ! 折角落ち着きを取り戻していた心臓が、また忙しくなる。体中の熱があちらこちらに行ったり来たりしてるみたいに。 「こ、これがデートというものなんですかっ」 「お前が言ったんじゃねーか」 Effect |