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丸井が1歩進むのにつれ私も足を進める。自然と丸井の手が私の手を引く。勿論私が転ばないように、だ。それ以上もそれ以下も、それ以外もなにもない。自分にいいきかせるように繰り返した言葉がなんだか虚しく感じた。彼女でもないのに手を繋いで歩いていいのかといつも思う。丸井ファンが怖いし、それに申し訳ない。丸井が気を遣ってくれるのはわかってるのだけど、心臓がどきどきとうるさくなるから困る。別に、やましい気持ちなんかそこにないっていうのに。いや、恋愛とかそういうのがやましいとかじゃなくて、言葉にしがたい。気遣い以外の気持ちがそこに存在しないって事だ。 こればっかりには、慣れない。歩いてく内に緊張は解けていくけれど、握られた手から力が抜けていくのを阻止できない。その感覚に慣れないし、慣れてしまうのももったいないと思ってしまう。何でもったいないのかわからない。自分の体温がなくなってしまったみたいに、丸井の体温だけが握られた左手に集中する中、丸井がぼそりときり出す。 「あのさ、コンタクトって試したことある?」 「ないね。ずっと眼鏡だった」 「そか。じゃあさ、コンタクト試してみたいって思わねえ?」 「な、なんで」 「だって、眼鏡してねー方が可愛いじゃん」 いきなり丸井が可愛いなんて言うから、手に集まった熱が全部顔にきてしまった。わ、私が、可愛いと言うのか丸井!素直に嬉しいけど照れる!そしてありがたいです、けど照れるのです。言われ慣れない言葉にあたふたしながら、結構真面目に進言してくれた丸井に「ありがとう」とだけ返した。ちゃんと人を見て、考える丸井は結構いい奴だ。わがままで横暴なとこもあるけど。ちゃんと、優しいのだ。 「じゃあ、明日12時に迎え来っから」 「は?」 明日は土曜で学校なくて…12時って? ていうか丸井は部活のはず。 「眼鏡見に行くんだろ?」 「…行くけど…」 「だから12時…もっと遅い方がいい? それか早いとか」 「いや、そうじゃなくて!」 親と行こうと思ってたのだが、どうやら丸井と一緒に行くってことになっていたらしい。丸井の中で。折角だし、丸井と行きたいと思うし…それにこのチャンスを逃したくない。何のチャンスか知らないが。 「丸井、部活あるでしょ」 「明日は午前中までだから平気」 「そ、か…じゃあお願いしてもいいかな」 「まかせろぃ!」 丸井に見送られながら玄関に向かう途中、後ろから「こけんなよー!」と丸井が叫んだので、「こけないし!」と叫び返してやった。丸井の顔はやっぱりよく見えなかったけどきっと楽しそうに笑っていたと思う。 階段という敵に無事勝利し、自室に入ってベッドの上で鏡と睨めっこしてみる。 「コンタクトか…」 確かめるように頬に手をあてる。やはり視界の主線が歪んでいた。鏡をぐっと近づけたとこでやっと自分の顔がクリアに見える。 「似合うの、かな」 コンタクトしたことないから怖いなあ…。あれ痛いのかな。つか眼球傷つけないのかあれ。いきなりコンタクトしてったらみんなどう思うかな。 自分の顔を見ながらもんもんと葛藤してく内に、どんどん気恥ずかしくなってきて考えるのをやめて鏡を放り投げる。ああもうだめだ!と声に出して叫びたいほどだ。仕方ないので枕に顔を押し当てて叫んでみた。 Notice |