あなろぐがーる | ナノ
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朝、やっぱりまだアイツに会う気になれなくて、迎えに行けなかった。早く謝んなきゃいけないのに、まだ心の準備が出来てない。俺ってなんてチキン。くそ、仁王のやつ俺のことファミチキ呼ばわりしやがって。いつか俺がファミマでバイトした時にゃ覚えてろよ。アイツにだけはファミチキ売ってやんねえ。目の前でチキンに唾吐けてやる。いやでも感謝はしてる。でもチキン呼ばわりは許せない。でも反論できねえ。
それでも無意識の内にアイツの家の方向に足が向いていた。やっぱり途中で気付いて、別のルートから学校に向かう。朝、早くに着いた俺はすることもないので一人本の世界に誘われる。話の展開がクライマックスに突入、集中していたせいもあってアイツが登校してきたことを、アイツの声を聞くまで気付かなかった。ちらりとアイツを見ると、微かに目が赤い。やっぱあれから泣いたのかな。罪悪感の波が押し寄せる。罪悪感が俺を縛るのから逃げたくて、目の前の文章を睨む。一文字一文字を頭に入れるように目で文章を追う。少しでも罪悪感を頭から出してしまいたかった。

「丸井」

好きだった、声が、俺を呼ぶ。すぐそばに響いたアイツの声は、いつもより低くて掠れていた。いつもの高いソプラノが懐かしい。それを聞けないのは俺のせいなんだよな。

「‥‥よっ」

顔を見る勇気がない。勇気がなくても、コイツとちゃんと向き合わなきゃいけないんだよな。ごめんの一言を言いたいのに、言えない。本を閉じて、小さく息を吸う。頭に入れたはずの文章の一文字一文字がすうと消えた。全然頭に入ってねえじゃねえか。頭ん中に入ってるのは全部側にいるコイツのことだ。いつも以上に、考える。
そいつは、俺を伺うように、おどおどと言葉を選びながら話し出す。どこかよそよそしい。拒絶、されてるみたいで悲しくなった。その悲しみを生み出したのは俺のせいなのにな。返事が、そっけなくなってしまう。こんな、冷たくしたいわけじゃないんだ。いつもみたいに笑って、冗談言い合いたいんだ。
暫く沈黙が続く。アイツは何か話題を探してる。それって、まだ俺と居たいってことじゃねえ?

「今日も、部活見に行っていい?」

フリーズ。完全に、小説の内容なんて吹っ飛んだ。部活、見に来る? 今日? 本気で言ってんのかよ。表情を変えないまま、ソイツを見ると思った以上に目を赤くして、泣きじゃくった後なのがわかった。それがひしひしと伝わってきて、追い出そうとした罪悪感が倍になって頭ん中に戻ってきた。今すぐその目元に触れて、ごめんって言ってやりたいのに、触れることすら出来ない。謝るのも、まともに話すことも出来てない。だめじゃん、俺。嬉しくて、嬉しくて、照れくさくて、かっこつけて、返事の代わりに約束を取り付けた。

「今日、一緒に帰るか」


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