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「大丈夫か…?」 ぐるぐる巻き上体から開放され、とりあえず橋に背中を預けながらゆっくり息を吸い込んだ。声が、出せない。出せても、きっと震えちゃう。声を出さない代わりに頷く。そのまま顔を半分だけ上げて停止。 さっきまでわらわらいた人たちはいなくて、気が付いたら黒崎君しか目の前にいなかった。 茶渡君は、確か…私の腕の傷(縛られてる時に付いた)を見てなにか買ってくるとその場を後にしたんだっけ。包帯よりも私にはほかほかの肉まんの方が薬になると思う。夏に食べても微妙かもしれないけど…ていうか夏にも肉まんって売ってたっけ? コンビには商品がスーパーより高いからノーマークだったわ。 でもおいしいよね。あんまコンビニ利用しないけど。 「………」 「ごめんな」 「………」 頭を振って、否定して。下唇を思い切り噛んだ。痛い。 「怖かったよな? 怖い思いさせて…ごめん」 ふるふると首を横に振って、ぎゅうと下唇を噛む力を強めた。痛い。痛い。痛い。 「あんま噛むなよ、変な跡付くぞ」 黒崎君の指が口角に寄せられるけど、力が抜けない。力を抜いたらきっと我慢してた分の気持ちが嗚咽になって出てきそうな気がしたから。 「…………」 「……ごめん」 小さな沈黙の後のごめんに、何も返せなくて、でもなんだか嬉しくて怖くてでも嬉しくて微かに潤んだ瞳がまた水分を帯びてくる。私ってこんなに弱かったっけ、泣き虫だったっけ。 ちょっと前までだったらきっとこんなに泣かなかったよ。きっと、強がってる人は優しくされたら弱くなっちゃうんだ。人の優しさは強いけど、心を弱くさせる。私は、きっとみんなに甘えすぎたんだ。黒崎君に依存しすぎたんだ。だからこんなに、黒崎君を前にすると強がりできなくなる。弱いの全部涙になって出てきて縋り付きたくなる。 「先に言ったからな、」 そう言った矢先に、柔らかいものが上唇を挟むように寄せられた。 「っ…な、は、ッ?!」 「やっと喋った」 「く、くろ、…っ」 「やっぱ歯形付いちまったじゃねーか」 何事もなかったようにいつも通りの顔をして言うものだから、びっくりしてる自分がおかしいのかと錯覚してしまう。いや、私おかしくない! 今、この人…キ、キキキ、キキ…ッしましたよね! そ、そんな…っ、っスってそんな、簡単にできるものなの?! ていうか心の中でさえちゃんと言えないってどんだけ私うぶだよ!! 小学生でもどもらず言えそうな単語だよ!っていうかそんなこと今いいから! キスって(あ、言えた…!) 好きな人とするもんなんじゃないの? 「な、なん、で…」 「先に謝ったからな」 「そ なの、わかんないよ!」 「なぁ、おなまえ」 「な、なにっ」 「お前さ、自分のこと好き?」 「……え?」 「もしさ、おなまえが自分のこと嫌いだったとしてもさ、つか嫌いな部分があったとしても」 「………」 「俺はおなまえを好きだぜ」 「……、は?」 「は、って…告白してるんスけど」 片手で頭をかきながら照れくさそうにそう言った後、付け足すように「こんな時に言うのもなんだけどよ」と呟いた。 好きって…どういうつもりで言ってるの? 本当こんな時に |