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多分、私は馬鹿なんだと思います。あ、でもそれって今更ですよね。本当はずっとずっと昔に気づいていたことでした。でもまさか自分がそこまで間抜けな人間だなんて誰が知っていたでしょうか。確かに、多少私はどこか抜けてるいわば間抜けに類するやつだとはうすうす気づいていましたが。まさか、まさかです。ほんとまさかですよね。 まさかのお誘いになんの疑いもなく承諾し、まさかまかさの誘拐事件にあうだなんて。自分の警戒心のなさを嘆くしかありません。そりゃ、まあ見ず知らずの方についていくような無防備なことはいくら私でもいたしませんが、相手はクラスメイト。クラスメイトに誘われればついていきますよね。それが普通なのか普通じゃないのかは私には判断しかねますが、今まで他人と付き合ってこなかった私からしたら、それは本当に嬉しいことで、誰かに“私”として誘われたことがあまりない私だったから断る理由なんてなかったんです。とまあ言い訳はちゃんとあるんですが、ここまでに至ってしまえば自分の非を認めざるを得ません。 ええ、自分が馬鹿だったんです。先ほどまでとてもとっても不穏な空気を黒崎君との間でかもし出していた大島君の誘いに乗るだなんて自分が100%悪かったんです。それに彼はつい先ほど私に対しても井上織姫の妹として見てきたのも事実で、私はなにを都合よく失念していたんだろうと憤慨するほかありません。 「さっきから私日本語怪しいなぁ…」 とりあえず状況を説明すると、放課後黒崎君と別れてこれからバイトへ行くかってときに大島君にちょっといいかなんて声をかけられ、先ほど屋上であったことなどすっぽり忘れていた私は何の躊躇もなしにいいよと若干心躍らせながら承諾し、気がついたらこの様である。この様というと、人気のない河川敷のもと椅子に座られワイヤーでぐるぐる巻きというどっかの熱血少年漫画にでてくるようなシチュエーションである。はいはい、男の子同士で殴り合ってうんたらするんですよね。でもね、でも、私は男の子じゃなくてこれでも女の子なんですよ。どこが女の子らしいのかと問われれば言葉に詰まりますが家事はできる!と主張できるくらいは女の子しています。とりあえずワイヤーを私一人の力でぶちぎることなんてできないのでおとなしく座っているんですが、私をこんなぐるぐる巻きにしたって何か起こるわけでもないんですよ大島君。ていうかなぜに私はこんなことになってるんでしょうかね。おい大島説明しろ。あ、いえすみませんそんなこと怖くて言えません。だって目の前にはずらりと他校のいかにも不良といった感じの男子生徒がいるんですもの。怖すぎです。 とりあえずおとなしくしてれば害はなさそうなんだけど、私の生活に害が出始めています。バイトに大遅刻です。怖いです。 とにかく私は何でこんなことになってるんだ。私が大島君に何かしたってのか。何もしてないし、喋ったのも実は屋上ではじめてだったし。ていうか直接私から喋ったわけじゃないっていうかもうほんと意味わからなすぎて頭痛い。そろそろポジティブに考えるの限界だよ。泣きそうだ。 つれてこられる時に引っ張られた髪が乱れててすごく気になる。髪の毛が口元に…! 頭皮痛いんですけど禿げたらどうしてくれるんですかね。こんなことになるなら短くしとけばよかった。というか、私のせいじゃないよね。 「なぜ自分がこんな目に…」 ため息を吐き出して、気持ちを落ち着かせようとしたのだけれどかえって惨めになって涙が浮かんできた。今両手使えないんだから泣いたって涙拭えないじゃないか。 理不尽な扱いに少々苛立ちを感じ始めたときやっと周りの声が耳に入るようになった。なるべく自分の世界に閉じこもっていようと思っていたのに、たった一言で意識を現実へ戻されてしまった。 おい、こら…そこの誰か知らないけど唇にピアスボコボコ開いてるやつ、今…“黒崎”って言った? なんでここで黒崎君が出てくるんだ、疑問を持って、ああそういえば大島君と黒崎君は仲が悪かったんだったと思い出した。仲が悪いって話じゃないよねあれは。大島君が一方的に絡んでるだけなんだけど、そこまで大島君は黒崎君が嫌いなのかな。嫌いだけでこんな大掛かりなことができるのか。男の子って変なとこですごいなあ。 ていうか他校のめっちゃ悪そうなお兄さんたちも黒崎君のこと知ってるみたいだし、あの人は一体何をやらかしたんですかね?! 一つだけわかることは私は勝手に人質にされたってことだ。 なんて浅はかなことをしてくれるんでしょうね。私なんて人質にとっても意味なんてないのに。ああ、そういえば前にも人質にとられたよね私。馬鹿だなあ。なんでいつも黒崎君が助けにくるって考えちゃうんだろう。どうして、いつも黒崎君が中心になっちゃうんだろう。期待は確かにあったりもするけど、望んでいるわけじゃないのに。こういうの理屈じゃないって言うのか。いや違うだろ。 目の前に顔も見たこともない奴が現れて色々聞いてきたけどぶっちゃけ耳に入ってこないよ。ぎゅうと唇をかたく結んで俯いていたらまた髪を引っ張られた。痛くて怖くて、それでも声を出してしまったら泣いてしまいそうだったから必死で結ぶ唇に力を入れた。泣いたら、きっと私が私を絶対に怒るから。 泣かないことが強いことなんて言わないけど、泣いていい時と泣いちゃだめな時はあって、それを決めるのは私自身だから。そして今は泣いたらだめな時だって思うから。 ていうか、黒崎君に何かあるんなら直接本人に言いに行ってほしいわ。そしたら私はきっと黒崎君に助けにきてなんて願わなかったはずで、今頃平和にバイトして生活費を稼いでいたはずなんだ。 何でもいいから早く来てください! どうかまた救ってくれますように、なんて 落とせない粒を |