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いつものようにみんなで屋上でランチを楽しんでいた時のことだった。本日の私の昼食はちょっぴり豪華にたらこと鮭わかめのおにぎりになんとデザートまで付いているのだ。幸せ。 「今日は上機嫌なんだな」 朽木さんが野菜130%ジュースのパックにストローを差し込みながら聞いてくる。130%って100%とどの辺が違うんだろう…30%くらい健康的なのか、そりゃお得だな。なんて明後日の方へ考えて、朽木さんの問いかけにおにぎりを掲げながら笑顔の理由を説明する。彼女に言えば呆れたような顔をされた。単純だ、と笑う彼女はとても綺麗だった。 私達が女の子同士(うは、感動…!)で盛り上がっている間に男子達の方も盛り上がってるみたいで(だから朽木さんも普通に本性出してるのか)、どういう流れなのか野球拳が催されていた。浅野君…早くも危ない格好だよ…。 「阿呆だな」 「でも楽しそうだよ?」 「混ざってくればいいじゃないか」 「えー、私じゃんけん弱いし遠慮するよ」 「この寒空の下裸になるのは嫌か」 「その前に脱ぎたくないよね」 「同感だな」 デザートのぜんざいのカップに貼り付いているテープをはがして蓋をあけると、すごく幸せな気持ちがわいてきた。デザートなんて、贅沢ッ! 幸せ! 「…安上がり」 「その方が得だと思います! 朽木さんも一口どうですか?」 「いや、いいよ。お前の幸せは取り上げないことにする」 「……はい?」 朽木さんはそれから私から視線を外してズズーとジュースを啜るだけだった。とりあえずぜんざいを食べなければ。私の幸せは取り上げられなかったみたいだしね。別に一口くらいもらってくれたって構わないんだけどなあ…。幸せは分けたほうが笑顔が増えるからもっと幸せな気分になれると思うよく朽木さん。 ぜんざいを食べながら幸せを噛み締めていると(あんこうまし!) 乱暴に屋上のドアが開いた。ぽかーんと、そのドアを見やれば大島君(だったような…)が、仁王立ちしていた。表情が痙攣している、いや違くて、顔が痙攣している…か。自分の間違いを指摘してる間に大島君は何か大声で叫び黒崎君の胸倉を掴んで持ち上げた。何を言ったのかは声が大きくて(滑舌が悪いともいう)聞き取れなかったけど、とりあえず不穏な言葉だったに違いない、雰囲気からして。いや、そんな冷静に解説してる場合じゃないよね。険悪だよ険悪! オーラが黒い! 黒崎君と大島君の周りにダイアモンドダストが漂ってます! 「と、ととと止めないと!」 「お前の場合かえって怪我人が増えそうだから何もしないほうがいいと思う」 「そんな冷静に人のキャラ分析してないでさ、っていうか私じゃ止められないことくらい解ってるよ! どうせ私は無力です!」 「いや、そこまでは言ってない…まあいいか。とりあえず小島のように落ち着け」 「(慌ててるの私と浅野君だけじゃないすか!)」 必死に大島君達をなだめようとしてる浅野君に影ながら(申し訳ないけど、本当に影ながら)エールを送ってみる。穏便一番! ていうか黒崎君は大島君に何をしたんですか! そんでもっていきなり登場した大島君は何できれてるの! 意味わかんない! あ、浅野君吹っ飛んだ。 「あああああ浅野君!」 弧を描きながら漫画さながら宙を舞う浅野君を華麗に茶渡君がキャッチした。私の幸せな気分は突如登場した大島君という存在により吹き飛ばされた。 「なななんで男の子ってああも野蛮なんでしょう…!」 「まったくだな」 「そして何で朽木さんはそんなに落ち着いてるんですか!」 「一護があんな図体だけの奴に負けるはずないと知ってるからな」 「いや、まあ黒崎君は強いと思うけど…ていうか強いの?」 「強いよ」 「うわあ小島君!(いつの間に背後に…!)」 「子供の頃空手やってたみたいで…中学まではあの有沢さんより強かったんだって」 「へ、ぇ…」 「見た目もあんなだし喧嘩慣れしてそうだしね。半分は偏見だけど」 コーヒー牛乳片手ににこやかに説明してくれる小島君。あ、そうなんだ。知らなかった。黒崎君の中学生の、頃…全然、知らない。有沢さんより強かったんだ。黒崎君て強いのか、すごいのか。 「うっせえな、いい加減にしろっつの!」 「……あ」 「あー…」 「…ム…」 「あらぁー」 どしん、大きな音がすぐ目の前でした。見れば目の前に大島君の身体が転がっていた。どうやら黒崎君が投げ飛ばしたらしい。危ない! 「…………」 「おなまえ悪ぃ! 大丈夫だったか?!」 「え…、……」 「大丈夫じゃねーよ! もうちょっとで当たるとこだったじゃん! 一護のバカ!」 「テメーにゃ聞いてねえ」 「ヒドイッ!!」 「や、いや、私より大島君が大丈夫かな…?」 「大丈夫なんじゃない? 身体丈夫そうだし…」 「そんな、アバウトな、っ」 何でこの人たちこんなに冷静なのおおおおおお!!! むくり、と立ち上がった大島君のそばに、大島君の友達(名前が出てこない)が駆け寄る。 「てめえ黒崎…!」 「もうやめようよレイちゃああああん!」 「へっ、いい度胸じゃねーか黒崎…」 「なんでこんな少年漫画のような展開に?!」 「もう俺疲れたよ! 大島死ぬぞ!?」 「し…ッ?!」 「大丈夫でしょ」 「黒崎君、黒崎君! やめようよ、もっと平和に話を進めてほしいです!」 「何言ってんだ、平和をかき乱してんのが大島だろーが」 「挑発に乗らなくていいじゃない!」 「んだてめえ…って、お前」 「な、なに…」 私に気付いた大島君が、じろりとこちらを見てから井上の妹じゃねーかと見下したような目で見てきた。見下すような笑い方が気に入らない。非常に不愉快ですよ。 あ、むかつく。せっかく人が穏便にことを進めようとしてんのに、また姫ちゃん姫ちゃんって…。私は姫ちゃんの妹の前に井上おなまえなのよ。そんなことを思っていたら、言葉には出なかったものの表情に出てしまったらしく、大島君がまた現れた時のように大声で何か言ってくる。ごめん聞き取れなかった。耳遠くなっちゃったのかな 「てめー、俺に勝てねえからってソイツに八つ当たりしてんじゃねよ」 茶渡くんが後ろに隠すように私を押し退けた。その直後に黒崎君の回し蹴りが大島君にクリティカルヒットしそのままドアまで一直線。お見事、だけど、もっとこう、ピースフルに行かないものなんですか! ほんとに死んじゃうよ! 動かないし! 「おなまえ」 「なんでしょうか?」 「大島を見てみろ」 「…動かないけど…」 「大島…、小島」 大島君の方を見ると、巨大な身体が倒れていて…小島そう言って彼女が指す先にはコーヒー牛乳を啜る小動物のような小島君。対照的であり、確かに大島小島である。 「ふ、… あはははは!」 「ぴったりだろう」 「…ど、どうした?!」 結局大島君は何がしたかったんだろう 消える。背中 |