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めんどくさいめんどくさいとだらけていた松本を叩き起こして、虚が出たあたりへ駆けつけて、尸魂界に送ってしまえば後は簡単だ。任務は終わり……残された仕事は報告書と尸魂界に戻ること。 さっきまで騒いでいた松本が「あっけなかったですねー」と、空高くに舞う地獄蝶を目で追いながらのん気に呟いた。わざと大きな溜息を吐いて、静かに「確かにな」頷く。松本に聞こえたかはわからない。ことが済んでしまえば、先日の苦労はなんだったんだとまた溜息を吐きたくなった。 「え、冬獅郎君たち帰っちゃうんですか?」 「ああ。これ終わったらすぐ」 「…そ、か…」 伝令神機と睨めっこしながら右手の親指で文章を打っていく。隣にいるおなまえが「また静かになっちゃうなあ」と、俺が今まで借りていた鍵(キティとかいう猫のキーホルダーが付いた)で遊びながら寂しそうに呟くおなまえに「俺がいたって静かだっただろ」と適当に返す。俺じゃなく松本がこっちに来ていたらきっともっと彼女を楽しませられたのかもしれない、頭のすみで考えて、瞼を閉じてその考えを取り消した。 「でも、楽しかったよ。夜ね、寝る前に話し相手がいるのってすごく…なんていうんだろ、安心できるっていうか、心地よかったなあ」 この数日間を振り返るように宙に目を向けながら話すおなまえの声はどこか弾んでいる。確かに、楽しかったといえば楽しかったし、おなまえといるのは意外と居心地がよかったかもしれない。騒がしくも静かすぎでもなく、ちょうどよかったと思う。話の内容とか、着眼点とか興味深かったな…そんなことをぼんやり思い出していたら打ち間違えていた。 「あ、…チッ」 5行くらい削除して、また打ち直す。 「お前さ、」 「ん、なんですか?」 「ここずっと思ってたんだけど…」 「うん?」 「黒崎のこと、どう思ってるんだ?」 「はい!?」 「いつも、黒崎と比べられてたような気がしてた」 「………」 ぱちん、伝令神機を閉じて、おなまえの目をまっすぐ見つめる。 「比べてたつもりはないんだけど……」 隣に座っていたおなまえが不意に立ち上がって、台所の方へ向かう。その背中を目で追いながら言葉の続きを待つ。 「…重ねてたかもしれない」 「…………」 冷蔵庫の中を覗きこんだおなまえが、「ごめんね、私…無神経すぎだよね、冬獅郎君に失礼だった、ごめんなさい」 中から何を取り出すでもなく、そのまま扉を閉めたおなまえが膝を抱えながら謝る。その背中が、とても小さく見えた。俺よりも背が高いくせに、背中は俺よりずっと小さく見えた。 別に怒ってなんてないし、気になっただけで謝らせるつもりなんてなかったんだ。そう伝えれば、彼女はゆっくりと否定して、またごめんと謝った。なんで、こいつはこんなにまっすぐなんだろうと今は見下ろせる位置にある彼女の頭を見つめた。 「私の目…綺麗って褒めてくれたのが黒崎君だったの。黒崎君のおかげで自分がちょっと可愛くなれた気がしたんだ…冬獅郎君と同じ言葉で褒めてくれたの。比べるのは、私が嫌なんだけど、なんか重なっちゃって」 目が、優しく細められるのを見ながら、黒崎なんかと同じ言葉で彼女を表したことを否定したくなった。いや、なんとなく。黒崎とかぶるのがなんとなく嫌だ。 「あは、冬獅郎君すごく嫌そうな顔してる」 「黒崎と一緒だと思うと…なんか…」 「あはは、…あ、冬獅郎君」 「なんだ」 「晩ご飯は食べて行ってね」 「…………」 こんなにもあっけない 本当だ、本当に |