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暗かった空は、太陽のおかげで明るくなりはじめて、朝が来たことを知らせた。朝日に目を伏せて、ハッとする。口の中に詰め込んだどんぐりをその場に吐き出して、一目散に駆け出した。ちゃんと起きれてるといいけど…。 窓の隙間から身体をひねるようにして入って、思考が停止する。オレが今入ってきた窓はいつもどおりの窓なんだけど、もしかしたら昨日オレがいない間に妖精がきて窓に魔法をかけていったのかもしれない。窓をくぐると人間になっちゃう魔法を……なんてそんなメルヘンなことはいいとして、一瞬そう錯覚しそうになるほどオレの色と似た奴が目の前にいた。あっちもあっちで驚いてるみたいだ。つーか誰こいつ! 不法侵入だな、泥棒だな、とりあえず威嚇。いやあしかし、もしオレが人間になったらアイツみたいなんかなあ。いや、オレもっと愛想いいか(お嬢オンリーで) 「おい、おなまえ…」 「はーい?」 オレを見ながら、この怪しい不法侵入者(不法侵入ってだけで怪しい)がお嬢の名前を呼ぶ。その後からご主人の返事が聞こえた。ええええええー! オレがいない間に何があったんだ?! 「あ、加藤君おかえり!」 「にゃー(誰すかコイツ!)」 「…………はい?」 「昨日の朝ぶりですね! もう寂しかったですよー!」 「…………あの、」 **** 「冬獅郎くん、この子加藤君!」 嬉しそうに笑いながら白い猫を抱きあげたおなまえが俺の前に猫をよこす。明らかに俺威嚇されてんじゃねーか。シャーシャー言ってんぞこいつ。心なしか睨まれているような気もする…。つーか、今…猫のこと加藤君とか呼んだ? 今朝のおなまえの言葉が頭をよぎる、「加藤君と冬獅郎君って似てるから」とかなんとか言ってたよな。言った言った。 で、加藤って………? 「猫じゃねえかあああああ!」 「わわわわ、え、ど、どうしたんですかっ!」 「どうしたんですか、じゃねーだろ! 猫じゃねーか!」 「え、う、うん、加藤君は猫だよ」 「紛らわしいだろうがッ!!」 「あいたっ!」 「うおっ!? いてえ!」 「わわわ、加藤君何して…!」 シャーガリガリッバタバキッドカ ※少々お待ちください 「はぁ、っ、はあ…っつ」 「と、とと冬獅郎君っ!」 「あン?」 「大丈夫…? あの、ごめんなさい」 「いや、平気だ」 「血出てる…いたそ!」 「引っかかれただけだ」 猫に引っかかれた傷を見る。意外に長く引っかかれたようで一本筋の傷は腕の半分くらいに伸びていた。目の前でおなまえが泣きそうな顔をしてるのを見て、なんだかこっちが悪いみたいな気分になってくる。安心させるように、大丈夫だと言ってみたけど、彼女の表情が明るくなることはなかった。俺より年上みてーな顔して何泣きそうな顔してんだよ、そう言って笑うと、彼女は 「ごめんなさい」、とだけ小さく謝って 「血を拭かせてね、と急に大人っぽくなったようにてきぱきと傷の手当てをしていく。手際いいなと関心してる内に彼女の泣きそうな顔はいつの間にか消えていた。 俺と似てるなんて言うから、どんな奴だろうと思ったがまさか猫だったとは…。昨日のこいつや黒崎たちの言動を思い出してみると確かに、人間の男にしては…という節があった。加藤が、猫ねえ…確かに、納得。どんぐり集めが趣味な男なんて早々いねえしな。猫にしても珍しい。で、この猫と俺はどのあたりが似てるんだ。猫と似てる、って俺もどうなんだ…? 手当てを終えると、彼女の表情がまた泣き出しそうな顔へと戻ってしまった。ったく、忙しい奴だな。 「その猫…」 「加藤君?」 「随分、主人に忠実なんだな」 「え、?」 「お前のこと小突いたら威嚇してきた」 「ほんと、ごめんね、ごめんなさい」 「別になんともないし、気にするな」 猫の癖して、なかなか…関心するところもあるけどやっぱいてえ。今はそれほど痛くないけど(引っかかれたときは痛かった) 「それより、学校はいいのか?」 「あ! あぁー」 **** 時計を見れば普段家を出る時刻を過ぎていて、このままだと学校に遅刻してしまう。今更真面目ぶっちゃって、なんて言われるかもしれないけど元々結構真面目だしね、私。間に合うなら全力で間に合わせるし、すでに遅刻の場合は諦めて遅刻するけどね! 「あ、じゃあ、私もう行かなくちゃ…お腹すいたら冷蔵庫に余りものが入ってるから暖めて食べて。あ、レンジの使い方わかりますか?」 「大丈夫だから、早く行け」 「い…っ、いってきま、す…!」 慌しく外に出て、普段ならきっとしないだろう階段の7段ジャンプを決めて、背後にある家が見えなくなるところまで全力疾走してみた。 走ったのとは別にドキドキしてるよ。うわ、絶対今顔赤い…! 「…なんだ…?」 行ってきます、なんていつ振りだろう? 残される白と白 |