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帰り際、乱菊さんは姫ちゃんのところに泊まるからと楽しそうに話していたのを黙って聞いていた。日番谷さんと乱菊さんが話している間にふつふつと前までの私が戻ってきてしまったように負の感情が迫ってきた。やっぱり、一番は姫ちゃんなんだと思いたくないのに思ってしまう。乱菊さんは無意識のはずで、姫ちゃんは乱菊さんたちと以前から関係があったから当然なのに、私はいつも姫ちゃんの後だなと感じてしまう。私の家に来てもいいのになあ、なんて思ったけれど、断られるのが嫌で口にしなかった。乱菊さんは姫ちゃんを知ってる。知ってるから、彼女が突然姫ちゃんの家を訪問したって、姫ちゃんは断らないことをわかってるんだ。姫ちゃんの方が付き合い長いみたいだし、私なんかといるよりもいいはずなのに、急に切なくなった。こんな自分大嫌いなのに、おさえられない。どうして私はほんの些細なことでも深追いして、姫ちゃんと比べて、自分を下げてしまうのだろう。答えは出ているはずなのに不思議でたまらない。 「黒崎君、私もそろそろ帰らなくちゃ」 「送って、」 「ううん、いいよ。まだ明るいし平気」 「そーか? 気を付けろよ」 「大丈夫だよ、ありがとう」 日番谷さんの怒声を背に乱菊さんは早足で行ってしまう。 「で、冬獅郎は行くとこあんのかよ? 俺ン家は無理だからな」 「誰もお前のとこに世話になろうなんて思ってねえよ」 「じゃあ行く宛てあんのかよ?」 「あ、日番谷さんさえよかったら私の家なんてどうかな」 「…え、?」 「ンなっ! ダメだろ! いやダメじゃないけど嫌だろ!」 「行くところがあるなら構わないんですけど、すみません! やっぱ嫌だよね」 「そっちじゃねーよ!」 「黒崎君どうしたの?」 「いや、そっちが構わねーんなら、頼む」 「んのぉッ!?(冬獅郎なら断ると思ったのに…!)」 そんなこんなで日番谷さんを私の家までお連れしたのはいいんだけど、玄関のドアを開けたところで急に固まってしまった。私じゃなくて日番谷さんが。どうかしたのかと声をかけてみると、彼はひどく言いにくそうに、「いいのか」 そう伏目がちに呟いた。 「何が?」 「恋人が、いるんだろ…こういうの困るんじゃねーか?(変な男っぽいけど)」 「、いや…私にそういう人いないし困らないけど…」 「は?」 「だから、早く中に入ってください」 「(ま、いっか)」 「今お茶いれてくるんで、適当に座ってて」 ***** お茶を淹れてくる、そう言って背を向けた井上の後姿を目で追いながらぼんやりと先ほどの表情を思い出す。戸を開けるまで普通にしてたのに、中に入った瞬間寂しそうっつーか、切なそうに目を細めたあの表情が頭の中にこびりついたようにはがれない。やっぱ、そういう奴がいるんだろうなあ、なんてぼんやり考えた。本当に、俺なんかがここに居ていいのか? 「たいしたもの出せなくてごめんねー」 「いや、いい」 「日番谷さんアイス食べます?」 「…おい」 「ん?」 「その日番谷さんってのやめろ」 「え、」 「こっちが世話んなるってのに、おかしいだろ」 「そうかな?」 「名前で呼べよ」 「…え!」 「俺もそう呼ぶし」 「冬獅郎君?」 「ん、」 「アイス食べますか? アイスって知ってる?」 「食う」 了解、そう言って座ったばかりなのに立ち上がったおなまえは照れたようにでも嬉しそうに笑った。たったそれだけのことなのに、安堵感が広がるから調子が狂う。まあ、嬉しいに越したことはないけど。 (あの目が写す表情や感情が、輝いていればいいのに) ほんの些細な、 |