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乱菊さんがルキアを引っ張って買い物へ行くのを見送って、おなまえに向き直る。乱菊さんが(強引に)おなまえを連れて行く前に(半ば強引に)引き止めたわけで、おなまえはちょっと面白くなさそうに唇を尖らせた。う、罪悪感が…(どうやら一緒に行きたかったらしい。そりゃそうか) **** 「お前さ、今日なんか変」 「…そんなことないけど(私からしたら黒崎君の方が変だよ…)」 とまでは口に出さずに胸の中に潜めておいた。 「なんか、元気ないよな」 「ありあまってるよ」 「なんかあったか、加藤と」 「…………」 言葉に詰まる。肩がはねてしまったのだけど、黒崎君は気づいただろうか。ていうかていうか、さっきから2人で会話しちゃってるけど日番谷さんを無視してていいのだろうか。無口な方のようだけど、こうもはっきりのけ者(ってわけでもないけど)してるのもどうも気分のいいものじゃない。私のものさしではかってるわけだから、彼自身それでいいのかもしれないのだけど(私だったら仲間に入れてほしいって思うだけで、日番谷さんが仲間に入れて欲しいとか思ってるかどうかは分からない) 「最近、加藤君…」 「おう」 「夜遊びが酷いんです…」 ぶっ、と吹き出す音が2人分きこえた。一つは黒崎君なんだけど、残りは日番谷さんということになる。 「んだぁ、そりゃ!」 「前まで夜は一緒に寝てたんだけど、最近よく出かけるんだよ!」 「(夜遊びって…紛らわしいわ!)」 「最近は朝も起こしてくれないし…」 「お前加藤に起こしてもらってたのか(猫だぞアイツ…)」 **** また、悲しそうに眉を下げながら表情を曇らせるおなまえ。マジで悩んでんのかよ。少々呆れながら、まあおなまえにとっては重大なことなんだなと思いどう言葉をかけるか考えた。 「しかも帰ってきたと思ったら口いっぱいにどんぐりつめこんでるんです」 「はあ」 「しかもなんか、どんぐりベッドの下に隠してるんですよ」 「へぇ」 「しかもしかも、私のへそくり用の箱を使ってるんです!」 「お前へそくりなんてしてたのか。つーか一人暮らしなんだから隠す必要なくね?」 「泥棒さんが来ちゃったらどうするんですか、用心に越したことないです!」 「つーかよ、どんぐり集めってさ、趣味だろ」 「何で夜なんですか…?」 「夜行性なんじゃねーの」 「…趣味が、どんぐり集め…」 「(変わった男と付き合ってんだな…井上おなまえって…)」 少々吹っ切れたような顔をしたおなまえが複雑そうにうーんと唸った。 「そっか」 「そうそう」 つんつんとシャツの裾を引っ張られる。目を向けると遠慮がちに目を左右に動かしながらおなまえが「あの、」と呟く。心臓あたりがずきゅーんと音を立てて痛くなったがそこはまあとりあえず置いといて、どうしたと尋ねる。上目遣いがちに、 「ひ、日番谷さんとも喋ってみたい、です」 と、声を潜めながら紡がれたその言葉に今度は心臓あたりとそれから頭の中ががしゃーんと音を立てて痛くなった。ぜってーこうなると思ったんだよな! ぎろりと冬獅郎を睨むようにして見れば 「何だ」 と、眉を顰めながら冬獅郎が声をかける。その態度が加藤にも似てて無償にむかついた。 「別に!」 「…(話してみたいのに話題がない…!)」 ***** なんとなく気まずいまま(私が一方的に、だけど)お待ちかねのキムチ鍋のお時間となった。いやっほーい! 未だに、日番谷さんとの会話はゼロ。乱菊さん(と呼べと脅され…ごほんごほん、めいれ、ごほごほ、お願いされた。「次に松本って呼んだらあんたの乳鷲掴むわよ!」)とは結構話す(というか話しかけてくれる)のに。何かきっかけがあってもいいよなあ。 ふと何気なく時計に目をやると、時刻は7時半を過ぎたあたり。……………? 「あっ!」 「どうした?」 「か、加藤君…」 「誰よそれ?」 「加藤君の晩御飯用意してない」 「ああ、奴か」 「えー、なになに同棲?」 「まあそのようなものです」 「(えっと、朝あげて、昼までは大丈夫だから…どうしよー! 私のばかあほばか!)」 「なーんだ、一護フラグじゃなかったんだー」 「おなまえ」 「な、なに? 朽木さん」 「このまま帰るなんて言わないよな?」 「え、あ、でも」 「私が行こう」 「へ、ええ!?」 「加藤に飯をやればいいんだろう? この間おなまえの家に行ったときに覚えたから私が行ってきてやる」 「なんで、朽木さんが…悪いよ、私、」 「せっかく呼ばれたんだ、いいから私に任せてくれ」 折れそうにない朽木さんにどうしようと困っていたら、黒崎君が「いーじゃねーか、ルキアが行きてーってんなら」と後押しする。乱菊さんはキムチに夢中だし、日番谷さんの姿は見えないし……誰か朽木さんを止めてください! 「安心しろ、お前の家に盗めるようなものなどない」 「ひ、ひどい…!」 2人の押しに負けて、仕方なく(心苦しいけど)鍵を渡す。どうして朽木さんがそこまでしてくれるんだろうと疑問を抱いたけれど答えは出なかった。だって朽木さんに「友人ならば当たり前のことだ」と丸め込まれてしまったから。そ、そんな嬉しいこと言ってくれても次はないですよ!と反抗してみた。「いや、意味わかんないから」と黒崎君のツッコミがここでも入った。 「すぐ戻る」 そう言って出て行った朽木さんの、“すぐ”という言葉を信じて、キムチ鍋は始まった…っていうかすでに始まってるううううううう! 「そういえば一心さんは…?」 「真っ先につぶれたけど」 「え! つ、つぶ…?!」 夏梨ちゃんがお茶碗片手にほら、と開いた手で指した先には気持ち良さそうに眠る一心さんの姿。その周りにいくつかビール缶などが転がっていた。 「あの人と一緒にさっき呑んでたんだよね、」 そう言った夏梨ちゃんの先にはあの人と称された乱菊さんの姿。手にはビール缶が掴まれている。お酒に強い方らしい…。ははは、と乾いた笑いがこぼれた。せっかく誘ってくださったお礼を言いたかったのに、本人寝てちゃ言えないや。また今度改めて言おうと決めて、テーブルに着く。しばらくして、黒崎君が向かいに、その隣に乱菊さんが座る。私の左隣に遊子ちゃん、そのまた左に夏梨ちゃんが座った。ふつふつと沸騰する目の前の(初めての)キムチ鍋にドキドキ。乱菊さんと黒崎君と夏梨ちゃんはすでに食べはじめていた。 「みんな勝手なんだから」と言いながら遊子ちゃんもちゃっかり食べ初めているし。私出遅れたよ! 「おなまえちゃんも早く食べないと全部一兄に食べられちゃうよ!」 「あ、はい、いただきます!」 かたん、と私の右側にある椅子が引かれる音がした。そちらに目をやれば日番谷さんが「もう始めてんのか」と独り言を呟きながら席に座った。え、ええええ! 隣ですか! お隣ですか! 隣の晩御飯ですかぁぁぁ! これは話すチャンス……なのに、やはり話題が浮かばず。目の前にあった、未使用のお皿と箸を日番谷さんに渡す。あ、これ話すきっかけじゃん。 「ど、どうぞ!」 「…ありがとう」 緊張してちょっと声が張ってしまったけど、それはいいとして、一言だけど日番谷さんとお話しちゃったよ! 一瞬びっくりしたように私を見てから、ありがとうと柔らかく口元を緩ませ笑った日番谷さんにほかほかと胸の中が温かくなった。 ―――ん? 「あ、よそいましょうか?」 「……頼む」 あ、朽木さん戻ってきたみたい。 (おなまえちゃん一兄睨んでるよ)(ん?) 不機嫌さん一人 |