黒曜石 | ナノ
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コンコンという控えめな音がドアの向こうからしてドアの方に目を向ける。なんとなく、ドアの向こうに立っている人物が誰だかわかってしまって、同情したくなった。おそらく、おなまえ。おなまえが遊子と石田に拉致されて気付けば30分以上は立っていた。ゆっくりとドアを開ければ、やはり予想通り立っていたのは涙目に疲れた表情を浮かべた(色々とかわいそうな)、おなまえだった。色々と実験されたのか、ツインテールの片方が垂れ下がっていた。ボロボロだった。

「お、おかえり…」
「どうして、」
「…え?」
「どうして皆さん助けて下さらなかったのですか…!」
「いや、助ける暇もなかったっていうか、なあ?」
「うんうん、おなまえちゃんモテモテだね。あの石田君を虜にしちゃうんだもん」

「おかしいんですよ!」
「おかしいのはお前のテンションだ」
「私のテンションは元からこんな感じです! そうじゃなくて石田君が!」
「あいつなあ、ああ見えて結構あっつい奴なんだよ」
「俳優志望だからな」
「(…それは違う…)」

「私、今日初めて石田君と話したんです」
「は?! 話したことなかったのかよ。もう1学期終わるぜ?」
「それ一護も人のこと言えないでしょ」
「あれこれ私に似合いそうな服とか、模様とかなんかよくわからないけどヒラヒラ度合いとか、延々遊子ちゃんと語り合ってるんです! 私にも同意を求めてきたんですけどぶっちゃけ全然話に付いていけませんでした!」
「あの2人に付いて行くのは無理だろ」
「スイッチ入っちゃってたもんねえ…」

「と、…とどめと言わんばかりに石田君が私に言ったんですよ…!」
「なんて」
「井上さんじゃ話にならないね。服が出来上がるまで黒崎たちの所で待機しててよ、って!」

石田の真似のつもりか中指で眼鏡をくいっと上げる動作をおなまえがしてみせた。こいつでも物真似って出来たのか。

「追い出されたのか」
「カルチャーショックです!」
「お前それ言ってみたかっただけだろ」
「災難だったね」
「い、石田君って、無口だと思ってたんですけど、そうじゃなかったんですね」
「ギャップってやつじゃない?」
「石田領域な」

おなまえも加わったところで勉強を再開しようってところで、ノックもなしにドアが勢いよく開いた。どうせ石田か遊子だな、と思っていたらドアの向こうで息をきらしながら立っていたのは夏梨だった。

「あああああー!!」
「今度はなんだ!?」

いきなり指を差したかと思ったら、いきなり叫んで、かと思えば忙しく階段を駆け下りて行った。な、なんだあいつ…! ほんとに忙しいやつだな。なんだったんだ? 一同ハテナを頭上に浮かべながら夏梨が立っていた一点を見つめた。つーか何を指差してったんだ? その答えは、すぐに分かることになった。

「ちょっと遊子!」
「なに夏梨ちゃん」

ガタガタと階段を踏み鳴らして夏梨が遊子の手を引きながら再び戻ってきた。それからもう一度指を差した。だから何を指してんだって。

「おなまえちゃんに着せ替えすんなら着物がいいって言ったじゃん!」
「またおなまえかよ!」
「ほんとモテモテだねえ」
「わ、私、着物なんて着たことないです…!」
「そっちっすか」
「おいお前ら、おなまえは着せ替え人形じゃねーんだぞ」

「着物か…井上さんに和服…いいね、きっと似合うよ」
「どっから沸いて出た石田!」
「黒崎、僕を虫か何かみたいに言わないでくれるかな 不愉快だ」
「な…っ、て、…!」
「一護抑えて!」

ヒラヒラドレス(なんかメイド服っぽい)を抱えた石田が逆光を発しながら嬉々として「浴衣もいってみるかい」と呟いた。おいおいおい、変なスイッチ入ってんぞアイツ! なんか危ない人みたいになってんぞ! めっちゃ石田笑顔だぞ!!

「浴衣かぁー、浴衣って着たことないから着てみたいなぁ」
「おいこらそこー! 頬を赤らめるな! 石田たちが調子に…!」
「あああもう遅い! 奴らの目が、目がぁぁあぁ! ムスカァァァ!」
「目が、輝いている…!」
「お前ら…楽しんでないか…?」

「今の季節、もうすぐ祭りもあることだし浴衣が活躍しそうだね」
「そうですね、急遽路線変更しますか隊長!」
「隊長!??」
「じゃあ井上さん、寸法をはからせてくれるかい」
「あ、ちょ、い、石田君?! (あなたってそういうキャラだったんですね…!)」

「おい、またおなまえ連れてかれたぞ」
「浴衣作るって言ってたね」
「……ム」
「こりゃあ祭りに行こう計画立てねーとな!」
「(あれ、これ前にもどっかで…? 番外編4に似たような出来事が…いや、何言ってんだ俺…わけわかんねえ。なんだよ番外編て…4って…?)」


で、石田は何しにきたんだっけ?
お姫様なあの子