黒曜石 | ナノ
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姫ちゃんに、ちゃんと言わないとダメだって黒崎君に言われてしまったわけなんですけども。やっぱり、ちょっと時間がほしいとも思う。最低でも明日までは姫ちゃんと向き合えそうにないです。私だって、まだ全部がすっきりしたってわけじゃないし、ちゃんと、言いたいことが何か自分と相談だってしたい。その旨を言葉を選びながら黒崎君に伝えると、「それもそうだな」って笑ってくれた。そうだなあ、明日の朝、そうしよう。朽木さんとのランチタイムはご褒美ってことにしちゃおう。女の子同士でお昼なんて姫ちゃん以外としたことなかったから楽しみだ。明日のお弁当はちょっと気合入れなくちゃ。

「あのさ、」
「はい?」
「俺もだけどよ」
「うん、?」
「水色もケイゴも、あんま話したことねーかもしれねーけどチャドだってお前のこと嫌いじゃないからな」
「え」
「ルキ‥‥朽木もきっとお前のこと好きだと思う」
「朽木さん‥‥‥」
「だから、気にすることねえよ」
「別に気にしないよ」

国枝さんに言われたことなら、大丈夫。言われ慣れてるから、今更とくに気にしたりしない。自分への慰めにしては悲しいけど、それが事実なんだ。傷付いたのは、あるけど、でもだからってうじうじ悩んだりしない。今はちゃんと、私を受け入れてくれる人がいるから。少なくていいの、一人でもいいの、その一人を私は大切にしたいと思えるから。人を理解したり、大切に思うのって大変なことなんだね。だから、たくさんの人に受け入れられなくてもいいや。本当は、姫ちゃんみたいに、たくさんの人に囲まれて、たくさんの人から大切に思われて、たくさんの人に受け入れてもらいたいけど。私には、小島くんや浅野くんたちで充分だし、それが私にはちょうどいいって思う。だから、いいの。姫ちゃんと比べたってしょうがないよね。数が多ければいいってことじゃないし、そのことをちゃんと受け入れられたのはみんなのおかげだ。姫ちゃんと会ったら、きっと私は謝っちゃうんだろうな。だってそれが私だもん。みんなが私を受け入れてくれたように、私も自分のことを受け入れてあげたい。

「黒崎君、」
「なんだよ」

空を仰ぐ。まっすぐに見た空はとても青くって、どこまでも繋がってて、綺麗。
「ありがとう」
「おう」
「あとね、千回くらいありがとうって言いたい」
「んだよ急に。千回も言われたって一回しか返してやんねえからな」
「私ね、みんなが好きです」
「そうかよ」

体育座りをしながら、今度は地面を見る。コンクリートの灰色を見ながら、ぼんやりと空の色を思い出した。

「私ね、黒崎君、好きだよ」

本当の気持ちを伝えたはずなのに、ばしんと頭を叩かれた。な、なんで‥! ていうか頭縮んじゃったんじゃないかな、今の!?

「ひ、ひどい!」
「うるせーよ」

そう言って、黒崎君は膝の上に腕を置いて、その上に頭を置いて顔を隠してしまった。
耳が髪の間から見え隠れしていて、その耳が赤かったことは黙っておこう。


“好き”が私の世界を創造するように、
好きで世界構成