黒曜石 | ナノ
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最近、体がだるい。というか重い…。

ここだけの話…私、黒崎君との約束破っちゃいました。実は、シフトを増やしたりバイト時間延ばしたり…色々あれこれしちゃってます。黒崎君の家でのお手伝いで電気代とか結構減ったんですよ。うふふ、バイトも出来て節約も出来て晩御飯もご馳走になっちゃったりして、かなり幸せなバイトです。でもバイトの時間を増やしたんです。バイト自体を増やしたわけじゃないので黒崎君に絶対秘密ということもないのですが、バイト先を紹介してもらっといて…という思いもあったり。でもこれにはちゃんとした理由があるんです。黒崎君にいつ見つかってもいいように言い訳だけは用意してあります。

加藤君のエサ代とかですよ。加藤君を言い訳にしたくないのですが事実なのでいたしかたない。ごめんね加藤君。でもね、でもですよ。バイトだけでこんな疲れるわけないんですよ。私体力は結構ある方ですから。睡眠時間さえ確保できれば全然オッケー大丈夫なんです。深夜なのでテンションおかしくなってるんですが、これもどれも寝かせてくれない人達のせいです。
寝かせてくださいお願いだから。

いつも通り言い訳をしてみたのですが、今回ばかりは私も黙ってませんよ! 今回ばかりは不可抗力であり、私のせいでも加藤君のせいでもないと宣言いたします。え、バイトの話じゃないのかって? そうです、バイトです。バイトを増やしたのは加藤君のせい(はい、責任転嫁きましたー)、でも寝れないのは別に理由があって元凶の人物がいるということです。

バイトよりも睡眠時間を今は優先したいんです。もう最近寝不足で寝不足で…もともと授業なんて真面目にきいてないクチですが、勉強そっちのけで寝てますよええ。睡眠の不足ついでにカルシウムも不足してます。そういえば加藤君に牛乳全部飲まれちゃったんだった…明日買ってこなくちゃ。こほん、話を戻して。23時…私がいつも眠りにつく時間です。 

「ああー今日もよく働いた働いた。疲れたよ加藤君おやすみなさーい」

布団に潜ります。そうすると最近必ずニいっていいほど決まって壁の隅からにょきっと何かが表れるんですよ。いつだったか幽霊の女の子がいた、あの場所から現れるんです。そして決まってこの言葉…

「ちょっとアンタきいてよ!」

初老の女性が私に向かって叫ぶんですよ。旦那さんを連れてね。これ、これです。ここが問題。いきなり アンタきいてよ、って。ていうか何で壁の角から現れるんですか吃驚しますから。もう慣れてしまいましたが。なんか悲しいな。それから愚痴を3時間、長くてそれ以上延々ときかされるんです。何が悲しくて幽霊夫婦の喧嘩を見守らなくちゃいけないんでしょうか。何が悲しくて幽霊の愚痴をきかなくちゃいけないんでしょうか。

奥さんが怖くて、とても寝かせてなんてとてもとても(じゃないかもしれないけど)言えません。旦那さんを見てると、とてもいたたまれなくなるので眠たいなんて言えません。毎晩毎晩、散々愚痴をこぼしといて最後には仲直りして、挨拶もなしに壁をすり抜けてどっかに行っちゃうんです。そしてまた明日(ああ、時間帯からしてもう今日ということになるんですね)来るんです。決まって23時に。貴重な睡眠時間を削られる私にとっては辛い事この上なしです。

もうたくさんだ! 私は眠いんだ! 何で私幽霊を見れるようになっちゃったんだ! ですが、どこにいても見れるってわけじゃないんです。この部屋に居るときだけ見えるんです。幽霊って本当にいたんだなあ、とは思ってましたがここまで幽霊さん達と仲よくなるのもなあ、とも思うのです。友達なんて指の数ほどもいません。お友達が欲しいです。欲しいけど愚痴を吐くだけの友人をほしいかときかれたら…まして幽霊さんだなんて、あまりいい気はしないです。
でも私を頼ってくれるのは本当に嬉しいので邪険には出来ません。それから、別の夫婦もたまにきます。何故か夫婦の幽霊が多いんです。ここは何か、幽霊達の愚痴吐き場か? 喋り場感覚ですか。しかも夫婦の…カップルの。そんなに私に惚気話をきいて欲しいのか! そんなに私に自慢したいのか! 深夜のテンションがヤバイです! 別に愚痴をこぼしにくることはいいんですよ私は。話をきくの大好きですし。頼られてる、っていうのは中々気持ちがいいものですね。自分の成長として私は強く受け止めますよ。何言ってんだかわからなくなってきたなあ、もう、寝たいよう。こっそり溜息ついとこ。

何度も言うようですが問題は時間帯にあるんですよ。サービス残業みたいな感覚ですかね、ただ働きです。でも私を頼ってくれるのは有難いので文句も言えません。幽霊の相談に乗るのもいいですが、まずは私の相談に乗ってください。どうしたら平和な夜は訪れるのでしょう?

「この人ったらまたねぇ…!…」
「お前はまたそういうことを…」
「はあ、…あの、もう寝てもいいですかね?」
「あんたはこういう男についてくんじゃないよ!」
「そういうお前はこんな男についてきてんじゃねえか」
「……ふぁぁ (寝たい。ていうかさっきから私、眠い寝たいばっか言ってるけどこの2人は別に話をきいてほしいわけじゃないんじゃないのか? ああもういちゃつき始めちゃったよ。なんですかこの夫婦、勝手過ぎやしませんか)」

――― 夜はこうして更けていくのだ。


気持ちよさそうに寝てる加藤君が羨ましい
ああ、睡魔さん