黒曜石 | ナノ
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予想は的中し、次の日は雨がザアザアと降りしきっていた。雨の日は気だるい。そういえば今日は本屋の方でバイトだったな…思い出して重い足で校門を出る。足元が濡れないように注意しながら歩く。雨のせいで外は寒くて、傘を持つ手がどんどん冷たくなっていく。

バイトが終わったのは午後9時。雨は、さっきよりもだいぶ弱くなったもののまだ傘をささなきゃいけないくらい降っていた。バイトの後だからだろうか、雨は少なくなったというのに気だるさは膨れていく。傘を持つ手が重く感じた。サアサアと辺りから響く雨音がやけに耳に届いて、雨だなあ、なんて当然の事を考えてしまった。雨が降ってるんだから雨なんだよ。意味わからないけどそういう事だろう。雨が降ってるから雨。我ながら説明が下手すぎる。サアサア、ポツポツ。地面に落ちる水と傘に落ちる水の音だけが聞こえる世界で、か細い猫の鳴き声のようなものが耳に入ってきた。足元の周りを左右確認してみる。電信柱の裏に、見つけた。
電柱の裏に縮こまっている、白い…猫。私の視線を受け取るなりニャアと一声鳴いてみせた。その声が本当に弱弱しくて、泣いているみたいだった。ここにずっと居たのだとしたら相当弱っているんじゃないだろうか? いつからいたかなんて私にはわからないんだけど。濡れ具合からして長い間ここにいたんじゃないかな。

「捨て猫かな?」

怯えさせないように腰を低くして近づいてみる。傘を傾けてやると子猫の上に降っていた雨が、止んだ。首輪もないこの猫は本当に本当に真っ白だった。その目だけが色を見せていた。

「私の家すぐそこだけど、来ますか?」

私とは対照的な“白”に惹かれた。姫ちゃんのような明るい色じゃない。私とは間逆にいる色をしたこの子に何かを感じた。くさいけど、運命かも、なんて思ったり。 この子を見つけた時、なぜか泣きそうになった。子猫の頭を一度撫でると、嬉しそうに気持ちよさそうに目を細めた。頭を撫でただけなのに、何故か本当に涙が出てきてしまった。捨て猫なのかな。捨てられたの? 真っ白だね、私は…真っ黒なの。全然違うのにね、同じに思えてきちゃって。とてもとても哀しくなった。捨てられた事をこの子は理解してるのかな? 私と同じなんて、言ってしまったら本当に悲しいけれど。それはとても、とても、寂しかったね。寂しそうに鳴いたこの子に目頭が熱くなった。寂しいよね、誰かが側にいないのは。悲しいよね、誰かに置いていかれるのは。

猫に語りかけてもしょうがないけど、何故か声を掛けたくなった。声に出して、形にしてしまいたかった。懺悔のようにその言葉は私の中に広がって更に涙が出てきた。一人ぼっちだった私が、蘇ってくる。一人なんて、もう味わいたくないよ。君はここで一人だった? 怖かったかな。私だったら怖くて泣いてたよ。私に向かって鳴いたとしたらそれは、君のSOSだった? だとしたら、私は君に感謝するよ。ありがとう。ありがとう、君は私に気付いてくれた。呼んでくれたもの。私は君に気付いたよ。ねえ…ありがとう。気付けて、よかった。抱き上げて急いで家に帰る。その途中で猫用のミルクを買ってやった。


とても綺麗なその姿もまた真逆だと魅せられた
エメラルドの眼